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品番がわからない場合


集合住宅のニュー・タイポロジーをつくり続ける

集合住宅のニュー・タイポロジーをつくり続ける
低層高密度やパーミアビリティ(透過性)などのコンセプトが魅力

松永さんの代表作のひとつ「中島ガーデン」の特徴は。

街の再開発の時には、まずゴチャゴチャとある街並みを全部ぶっ壊してクリアして、スクラップ・アンド・ビルドで超高層ビルを建てるという方法が20世紀のメインだったわけ。僕はそれが大嫌いで、でっかいものを壊して、下に低くするほうが遥かにいい。低層高密度で都市開発をやったら、もっと人々に優しい、親しみやすい街づくりができるんじゃないですかということを示したいと思って、そのモデルのためにあれをつくりました。

中島ガーデン

そうすると隣棟間隔とか外部の空間は圧縮されるのですか。

そうですね。それは無駄に広がらなくなります。

庭はあるのですね。

もちろん中庭があります。

低層高密度の良い例だということで、日本建築学会賞の受賞となったのですか。

そういう面もあったと思います。12戸と小さいものですけれど、もっと広いところでもそれを応用することができます。鹿児島大学で教えていたので、あれで学会賞をもらったものだから、鹿児島県の共同住宅を建てている公社から、「低層高密度のアイディアを利用して、団地のマスタープランをつくれますか」という話がありました。

それが「環境共生住宅ラメール中名団地」「環境共生住宅ハーモニー団地」ですか。

そうです。

環境共生住宅ラメール中名団地

環境共生住宅ハーモニー団地

このふたつはパーミアビリティ(透過性)がいいですね。

面白いでしょう。前からやりたかったんです。

「ラメール」は土盛りをしていますね。

「ラーメル」は埋立て地なので、冬の北風を防ぐために住戸北面に土盛りを設けています。この団地では路地が味噌なの。共同住宅ってバルコニーがあって、後ろ側に廊下があって、階段があります。それを一切やめて、路地から各住戸に行けるようにしています。ピロティを設けていて、路地を歩いている人がちょっと玄関先に立ち寄ることができるような空間をつくっています。あの辺では風雨が強いのでバルコニーは役に立ちません。そこでピロティを作ってバルコニー代わりにしました。

「中島ガーデン」といい、「環境共生住宅ラメール中名団地」や「環境共生住宅ハーモニー団地」といい、松永さんは集合住宅のニュー・タイポロジーを生み出していますね。それから今流行りの木造の「オガールプラザ」も代表作のひとつですが、あれはどのようにして来た仕事ですか。

鹿児島大学を定年で辞めて、東京に戻って来た時に、旧知の清水(義次)さんから「紹介したい人がいる」と言って紹介されたのが、岩手県紫波町の建設会社の息子の岡崎(正信)さんで、「目端が利く男なんで、この人のこれからやりたいという街づくりを手伝ってくれないか」という話になりました。「いいですよ」と話をしたら、「大手デベロッパーを集めて開発のコンペをやるので、審査員をやってほしい」と言うから、「自分の街の開発を東京の業者たちにやらせて、何の喜びがあるんですか」と怒ったんです(笑)。「自分でやりなさい。町有地なんだから町民のためにつくって、そこから上がる収益が町民に還元される、そういうスキームを考えなさい。お手伝いしますから」と言ったんです。そうしたら確かにそうだということになって、コンペをやめたんです(笑)。

オガールプラザ

清水義次氏

説得力がありますね。

正直な話、こんなところに大手デベロッパーは来ません。それより身の丈に合ったスキームで自分たちでやったほうがいいですよ。「じゃあポンチ絵を描いてくれませんか」と言われて、ポンチ絵を描いて出したの。そうしたら「お金は出せません。この中で最初に建てる建物はコンペをやるから、それで勝ってください。それが謝礼金になりますから」と言われました(笑)。

勝ってくださいと言われても、ライバルもいますからね。

えっ!と思ったけれど、やったんです。

そういう経緯があったから勝ったというわけではないのでしょう?

もちろん、違います。結果どうなったかというと、これだけの建物をつくらなければいけないんだけど、事業採算性を考えた場合には坪当たり40万円でなければ成り立たない。だったらやらないほうがいいという結論が出ているわけ。コンペには某有名な国際的事務所も入って来たんだけど、その条件で降りちゃったの(笑)。

なるほど。

僕の場合にはまず安くしようと、構造を徹底的に安くしました。まず木造でやらないととても合いません。金がなくて、自分の家を建てる時にコンクリートではつくりません。木造でやりますよね。公共建築では木造は高く付くと通常考えられていますが、われわれの発想では考え方が全然違います。構造の稲山(正弘)さんと共感して、コンクリートより安い木造をつくろうということで、考え付いたのがこの構造の方法です。坪40万円でできたんです。

稲山正弘氏

形がすごいですね。

逆さまにするとボートなんですよ。長いボートをつくって、1m80cm間隔に骨があるんだけど、その表面にベニア板を張って、それをパッとひっくり返すと大きな屋根になります。それでつくったのがこれです。

これは役場ですか。

図書館や交流センター、ホール、マルシェ、子育てセンターの他にテナント・スペースの入る複合施設です。これが出来て、木造のほうが安くできることが実証されたというので、大勢の人が見学に来ました。僕はこの仕事を地元の建築家と一緒にやったんですけれど、その人から「住田町役場」のコンペがあるので一緒にやりませんかと誘われました。それは建設会社と一緒に応募しないとダメなコンペでした。というのは予算が合わなくて不調に終わったプロジェクトがいっぱいあったものだから、必ず予算の中で収めるように確証を得るためには、設計事務所だけには任せるわけにはいかないということです。それでチームをつくって応募することになったんです。その第1案がこれです。木で作った樹木が36本並んでいるんです。

住田町役場

格好いい案ですが、第1案から変わってしまったのですか。

そうです。出来ていれば大反響だったはずなんです。すでに僕が発表しているので、他の人には真似できません。色々な経緯でもう1案考えてほしいと言われてつくったのがこれです。

これもスゴイじゃないですか。

レンズ型の大梁です。それとこういう柱しか立っていなかったら、地震でこっち側に倒れてしまうんで、それを支えるためには壁がいるんだけど、全部壁にしちゃったら真っ暗になってしまいます。それで稲山さんが考え付いたのが格子状にしてやることで、そうするとこれが筋交いになって、光も入るし、風も入るし、丈夫で倒れにくいんです。レンズ型もよくできているんです。

これはどういうふうになっているのですか。

割り箸のように細い集成材が互い違いに組まれているんです。これは工場で半分ずつつくって、現場でそれを接合させているんです。

よく考えられていますね。

稲山さんは天才です(笑)。

コンペを結構やっているようですね。

「住田町役場」が終わって、次に同じチームで何かやろうと言って、コンペに応募したわけ。そうしたらそれも入ってしまいました。

それはどこですか。

沿岸地方にある被災地の大槌町で、「御社地エリア復興拠点施設」というものです。これは稲山さんがスペインのコルドバで石造の二重アーチで有名な「メスキータ」を見てきて、それを木造でやろうと提案してきたのです。これは3階建ですから三層木造アーチというトンデモナイ発想です。現在工事中です。

御社地エリア復興拠点施設

メスキータ

滝沢IPU第2イノベーションセンター

これが一番新しい作品ですね。

その間にもうひとつ軽量鉄骨でつくった「滝沢IPU第2イノベーションセンター」もあります。それもコンペで取りました。

スゴイ!これはどういう施設なのですか。

盛岡市の隣の滝沢村は、現在は滝沢市になりましたが、IT関係のベンチャー企業を集めて研究してもらうための拠点をひとつつくったんですけれど、そこが満杯になったんで、もっと大きなものをつくるためにコンペをしたんです。これも業者と組まないと応募できなかったので、大和リースという会社と組みました。

コンペで評価された点はどんなところですか。

僕らの提案したものが空間的にすごく魅力的になっているのは事実ですが、最初の発想は牧舎なんです。大和リースという会社は軽鉄屋さんで、「自分のところでつくっている部材をできるだけ経済的に使えるような形式でやってもらえれば安くできます」と。これは牧場の隣なんだけど、僕は「牧舎にしたらいいんじゃないですか」と言ったの。「世界には納屋の中で研究をしている研究所が山のようにあるんですよ」と。ちょうどコンペの直前にヨーロッパで研究拠点とかをいっぱい見て来たわけ。だから「牧舎みたいなものをローコストでつくって、その中を研究所に変えればいいじゃないですか」と言ったら、「そういう発想でよければローコストでやれます」と言うので、すごく安くて、空間が豊かなものを提案することができました。

最近の松永さんの作品はコンペのものが多いですね。


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