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品番がわからない場合


新しいマルチ企業集団を目指して

新しいマルチ企業集団を目指して
話題のHEADとはなんぞや

松永さんはHEAD(Home & Environment Advanced Design)研究会の理事長ですが、この研究会はどのような発端で始まったのですか。

鹿児島から帰って来た時に、清水さんから「もうひとり紹介したい人がいる」と紹介されたのが、長屋(博)さんという名古屋のベンチャー起業家です。彼が清水さんにコンサルをお願いしたところ、名古屋での不動産事業が非常にうまくできたと、こういう優れた人のアイディアを生かすにはどうしたらいいだろうかと、相談を受けました。それまでに出入りしていた設計事務所とは全然発想が違うと。顧客第一主義で、素人にもわかりやすい、コミュニケーションがうまくいくような建築家に育たないと、建築家に未来はないんじゃないですかと、長屋さんが言うわけ。それをどうしたら改善できるかを研究するための研究会を始めたいと。それで僕はもちろん相談に乗るけれど、これはやっぱり芯になる人がいなければダメだと、建築のこういう分野にかけては東大の松村秀一さんを除いては余人をもって代え難しということで、まず松村さんを口説こうという話になりました。たまたま僕も清水さんも松村さんと知り合いだったので挨拶に行ったら、非常に喜んで、ぜひ協力したいと言ってくれたんです。それでHEAD研究会と名前も決めて、任意団体として始めました。松村さんの人脈で会員数も一挙にバーンと増えました。まず国際化、建材部品、情報プラットホームの3つの文化会をスタートして、それぞれ独自の活動をするような組織をつくっていったわけ。2011年には国交省の伊藤明子さん(最近女性初の住宅局長に就任)のアドバイスで一般社団法人化したのです。伊藤さんは松村さんの友人でわれわれにとっては大恩人です。

HEAD研究会(右端:松村秀一氏。1人おいて竹内昌義氏)

この組織の一番の特徴は。

自主性を重んじる。今200人近い会員が集まっているわけだけど、自分がやりたいと思う研究を始めたいんだったら、グループをつくって、自由に始めてくださいと。そのかわり皆ビジネスマンの集まりなので、自給自足でお金も自分たちで回るように考えながら活動してほしいと。どんどん増えて今は11のタスクフォース(国際化、建材部品、情報プラットホーム、リノベーション、ビルダー、不動産マネジメント、制度改革、フロンティア、ライフスタイル、エネルギー、アート)があるんだけど、中には面白いものもあるんですよ。

実質的な利益というのはありますか。

一番大きい利益を上げているのは、リノベリングです。日本では800〜900万戸が空き家になっていて建築ストックになっているわけだから、さらに新築で増やしても仕方がありません。だからこういうストックをどうやって活用するかを検討するべき時代に来ているんじゃないですかと。これはずっと昔から松村さんが言っていることでした。そういうものを生かすためにはどういうことを考えなければいけないか、例えば税制、相続、法律の問題があります。リノベーションして事業になるのか、ならないのか。ケーススタディをやるとか。これを体系立てて教える学校を始めようということで、リノベスクールというのを始めました。国交省から補助金も出してもらいました。1年間を通じてやってみたら、非常に反響がいいので、全国の自治体の人たちにも手法を学んでもらって、ストック活用社会に方向を転換するための施策を学ぶスクールを始めようと、リノベリングという会社を始めました。

HEAD研究会はタスクフォースでやっていますが、それとは別ですか。

その中からスピンアウトして、会社をつくって、金儲けをしてくださいと。どんどん事業をやってもらうことがわれわれの究極的な目的で、企業集団になるというのが夢です。もうひとつ最近始まっているのが、エネルギーまちづくり社で、エネまちと呼んでいます。社長はみかんぐみの竹内(昌義)さん。それはエネルギーを売る会社ではなくて、エネルギーを使わない手法を学ぶスクールを経営しています。すでに実践していて、そういう会社を立ち上げたわけ。次は大阪で何か始める予定です。研究会の分科会そのものが会社になってしまいます。シンクタンクのそれぞれの部門が分社化する感じです。

フレキシブルな組織ですね。話を聞くまでHEAD研究会がどんな活動をしているのかよくわかりませんでした。次に今度出した著書の『世界の地方創生―辺境のスタートアップたち』について聞かせてください。

HEAD研究会では色々な人を呼んで、レクチュアをしてもらうわけだけれど、その中のひとりに網野(禎昭)さんという人がいます。ウィーン工科大学で助教授までしていた人で、木造の最先端をやっていたんです。日本に帰ってきて、法政大学で教授をしています。スイス、オーストリアを中心にした地域の木造建築の動向についてレクチュアを頼みました。それがすごく刺激的なレクチュアで、皆が洗脳されちゃったの。最先端の大会社が研究拠点をアルプス地方に置く理由というのは、アイディアで勝負の会社にとって、いい発想を生み出せる環境がなければいけないからなんです。アルプスは理想的なんだそうです。アルプス山脈の南側のイタリアでも、北側のスイス、オーストリアでもそういう拠点がいっぱい進出してきています。そこだけではありません。例えばGoogleはスコットランドの一番北のはずれの島でやっています。それがひとつの世界の流れなんです。飲み屋をやるんだったら、都心のゴミゴミしたところでもいいけれど(笑)、自由な発想で何か新しいアイディアを生み出そうという時には、素晴らしい環境でないと。だから辺境にこだわったんです、なかなか理解してもらえなかったけれど。

『世界の地方創生』

網野禎昭氏(右から2人目)

ケネス・フランプトン

建築ではクリティカル・リージョナリズムという言葉がありますが、辺境という点では似ていますね。

ケネス・フランプトンですね。それから今回の本では、森林の活用というのもありますが、それともうひとつは食がテーマとなっています。バスク地方のサン・セバスチャンには、小さな街なのに三ツ星レストランが山ほどあります。フランス国境近くにある「エル・ブジ」というレストランは知っているでしょう。エスプーマや液体窒素を使った料理で有名な新進気鋭のシェフ、フェラン・アドリアが震源地で、その一帯が食のメッカになっています。アイルランドはヨーロッパの最貧国と言われていましたけれど、今やEUでルクセンブルクに次いで2番目の人口当たりGDPを稼ぎ出す国になっていて、アイルランドも食のメッカになっています。

今や食のメッカも辺境なのですね。

そうです。辺境がキーワード。今は交通が便利になっているんで、レンタカーを借りれば、すぐに辺境に行かれるわけ。だから物理的にはそんなに辺鄙なことはないんです。最初版元の学芸出版社の前田社長はこのテーマに乗り気でなかったのですが、初版が出るとほぼ同時に再版することになって喜んでいます。


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