変化し発展していく窪田デザイン
変化し発展していく窪田デザイン
空間的進化のプロセス
「T-HOUSE」もスゴいですね。この上の2枚の屋根が組み合わされている部分はテラスですか。
駐車場です。下は粗い感じのRC打放しです。逗子の斜面で平地ゼロの敷地を買われたんです。いい敷地です。今はオーナーが変わりましたので、少し改装して使われています。
先ほどの「M-CLINIC」にもありましたが「T-HOUSE」にも浅い池があるのですね。
はい。水が少し張ってあります。
岩国から逗子はかなり遠いですが、そういう場合には設計料とは別に交通費もいただくのですか。
基本的には設計料込みにしています。交通費をくださいと言うと、こちらが監理で行きにくくなるんです。監理で何度も行かなければならないことがわかっているので、設計料がちょっと高そうでもこれで勘弁してくださいと言っています。
この海側のバルコニーの部分は固定されていますか。ポイントになっていてカッコいいですね。
キャンティレバーですから、もちろん固定されています。
ここにちょっと出てきて、海を見るのですね。こういうところで生活したいですね。
ですよね。これもそうですし、「I-HOUSE」もそうですけれど、最後に渡したくないですものね(笑)。
僕は自分の家に帰るのがイヤになります(笑)。特に東京でいい住宅を見学してすぐ家に帰るときなどは、家に帰りたくないから、ハーモニカ横丁に寄って一杯飲んで酔って帰らないとダメですね(笑)。
なるほど。東京人らしい感じですね(笑)。
「KA-HOUSE」は外の形が「I-HOUSE」に似ていますね。これはRCで屋根を折れるようにしているのですね。
そうです。実は「I-HOUSE」と同じオーナーなんです。ちょっと離れたところにひとりでお父さんが暮らしておられたので、隠居部屋みたいにつくってほしいと言われました。
その方は余程窪田さんの建築を気に入っているのですね。
有難いです。それで救急車が入れるようにしていたり、スロープにしていたりします。また海が近いため台風の時に水が上がってくることがあるので、過去のデータを見て、若干上げ気味にしています。
それで小さいのですね。
住むのはお父さんひとりですから、大きい空間はいりませんでした。最近亡くなられて、現在は空いていますけれど、オーナーが自分の趣味に使おうと思っておられるようです。
「F-HOUSE」は複雑な形をしていますね。そしてここも崖ですね(笑)。全国の自宅愛好者が崖や海に面した敷地を入手して、窪田さんに頼みたいと思っているのではないでしょうか(笑)。ただ景色的にはスゴいのですが、自分の庭には植物がほとんどありません。それは外部の自然で代用しているのだと思います。庭に植込みつくるとか、グリーンで目隠しするというのは少ないですね。
少ないです。どちらかというと僕は淵上さんが今言われたのとは逆側にいます。庭があるのは逆に自然がないから庭で代用していると。これほど自然が深いとこれを享受することのほうが、圧倒的に自然感が強いですから、現物の自然と直に触れ合うことをこちらは狙っています。つくられた自然の中で満足しないようにもっていこうというのがあって、街中でも庭をつくらないようにしているんです。
確かに庭があると手間暇もかかります。
大変ですよね。元気なときにはそれが楽しみなんですけれど、しんどいときにはほっぽらかしになってしまいます。
窪田さんの建築では白くて低い家具がよく使われています。建築にもよく合っていますが、あの家具には誰かデザイナーがいるのですか。
ピエロ・リッソーニというイタリアのデザイナーです。
インテリアもビシッと決まっています。窪田スタイルの住宅は綺麗で住んでみたいと思う人が多いでしょうね。嫌われることは滅多にないと思います。
どうですかね(笑)。
実際に僕も窪田さんにこういうところに別荘をつくってもらいたいと思います。
僕のつくるものには、想像以上に標準的な感覚で住めます。先ほども話したように技術者としての教育が強いので、例えば寒い暑いといったこともほぼ安定した状態にしています。もちろん建築家として新しいものへの挑戦を考えているんですけれど、本質的にはストレスに対抗するために建築をやっていて、それが僕の最大の原点みたいなところがありますから、使うのが難しくて後でストレスがかかるようなことは止めておかないといけないと思っています。
普通に考えると、窪田スタイルの住宅は景色が綺麗で、開口部が大きくて、実際に暮らすと夏は暑く、冬は寒いのではないかと思ってしまいます。でもそういうストレスがかからないように考えているのですね。
できる限りのことはやっていますね。
以前は箱型だったのが、「A-HOUSE」からフロアに段差が出て、斜めの線が出てきて、エレベーションのポイントになっています。窪田デザインは変化しつつ発展して行きますね(笑)。
この撮影のときには見えていないんですけれど、天気によって真っ正面に富士山が見えるんです。家の中から必ず富士山が見えるようにつくっていくというのが、テーマになっています。
目の前が道路ですがカーテンなどがなくて平気なのですか。
撮影が終わったすぐ後に縦型ブラインドを入れています。ストレスが溜まるので、そう簡単に全面オープンにはできません。
「TA-HOUSE」でも斜めのポイントが続いていますね。当初はシンプルなエレベーションでしたが、どんどん複雑になってきていますね。
つくるのが難しくなっていますね。変幻自在状況になってきています(笑)。
「くらさこ保育所」はスカーッとしたエレベーションですが、最近の作品なのですね。昔に回帰したようにスッキリしていますが、プロフィリット・ガラスや木など材料が工夫されています。
そうですね。広島の奥のほうになるので、周辺は自然感たっぷりです。今時は子供の集まる場所に変なおじさんが突然入ってくるようなことがあって危ないんです。では閉じればいいのかというと、親御さんはどこかで確認できるようになっていないと不安がる方も多いので、そういうことを考えて、縦ルーバーを使ったり、中には完全なフラットな状況をつくり出したりと素直につくっています。
住宅以外の作品も数多いのですか。
数が多いということはありません。大きい仕事はさらに営業ができませんから。
NETには新しい作品として「G-HOUSE」が出ていました。これも敷地が崖ではないので中庭式ですね。
この周辺にはすごく流行っているケーキ屋さんがあって、オーナーはケーキ屋の隣にある大きなRC打放しの住宅に住んでおられたんです。でもその方が僕の作品が好きだから家をつくってほしいと言われました。「RC打放しの住宅があるじゃないですか」と言うと、「あの家は息子が帰ってくるので、息子にやる。ここに駐車場があるから、ここに建ててほしい」と言われたんです(笑)。駐車場の一部に建ててほしいと言われて困ってしまいました。そこにはお客さんが車をバンバン止めるんですから(笑)。
でもうまくやっていますよね。
いかに駐車場との縁を切るかというか、内部コアに入ったときにどうやって一気に切り換えるかということを考えました。
敷地としては崖や海のほうが多いでしょう。
そうですね。
窪田さんのクライアントはいい敷地の方が多いということですね。
設計期間も非常に長いですし、僕は来ていただいた方と結果的に親しくなっていくんです。どこか抑圧されたものがある方が、それを解消できる状況を求めていると僕には思えるんです。作品を見たときに何かを感じるんだと思っています。
ショールームに来る人よりも建物に来る人のほうが多いのではないでしょうか。
完成して間もないので、今はそうかもしれません。この間、HONDAのJADEという新車のCMのオープニング・カットにこれが使われていました。それでさらに反響が広がったんです。
それはやはり建物がいいということですよね。地球上の1か所を使うわけなので、建築は自然破壊なんですけれど、自然を超えるくらいに美しい建築というのもたくさんあると思います。
本当ですね。何もない自然の状況よりも、建築が建ったことでその街が生き生きして、街としてもよくなっていって、素晴らしいということに導いていくわけじゃないですか。
コモ湖の斜面にマリオ・ボッタの「リヴァ・サン・ビターレの家」があるのですが、その対岸から見ると自然の中に人工のものが入ることで非常に綺麗なのです。不思議です。
ゲーリィの「ビルバオ・グッゲンハイム美術館」もわかりやすい解答のひとつです。
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