閉じる

品番がわからない場合


精神が拡大していく建築を目指す

精神が拡大していく建築を目指す
窪田デザインの狙い

では仕事はどのようにきたのですか。

営業をしていくところもわからないし、営業すると言っても下請けとしてやるような営業しかできないし、そのうち何かあるだろうという気持ちでいたら、たまたま姉の知合いの方が家を建てたいというので、姉が設計をさせてほしいと頼んでくれたんですね。

「CRYSTAL UNIT」でああいうデザインが出てきたベースはどういうところにあるのですか。

それまで見ていて建築はプロダクツとして正しくないものが数多いと思っていたんです。元々僕は車の世界に行こうと思っていたので、車の流れで考えたときのディテールでいうと建築は非常に甘いんです。プロダクツとして考えた場合に、1台の小さな自動車でも全体のディテールが考えられた上で組み立てられていきます。組み立てるのは決して職人技ではなくて、工場での大量生産なんですけれど、でき上がってみると精巧にできているように見えます。それは事前の設計のときにプロダクツとしてのひとつのディテールにこだわることも含めて、全体のフォルムや構造ディテールが決まっていくからです。僕はそれをずっと見ていたので、建築はあまりにもその辺が甘い世界で、気持ちが悪いと思っていました。大建築家がつくりましたというものを見ても、確かに光、風、その建築の扱うもののコントロールとしては面白いんだけど、できたものの価値として、これで本当にいいのかというのを自分の中にずっともっていました。これでスゴいという意味がわからないという気分でした。初めて自分でつくることになったので、もちろんコルビュジエやミースみたいなものがデザイン・ベースにあるんですけれど、そこにはミースの言った「Less is more」みたいなことも含めて、もっとディテールを考えてやるべきだろうという物質的な考え方がありました。

CRYSTAL UNIT
(C)大竹静一郎

なるほど。

また一方で物質的なこととともに精神的なことも考えていました。コルビュジエやミースの空間体験では建築内に入ったときに精神が拡大していくようなイメージがあるのに、ほぼ大半の建築では建築内に入ったときに圧迫感を感じたり、ディテールに凝っていることがその建築家の主張として表れて押し付けがましかったりして、建築が強く主体性を出してきます。コルビュジエやミースは建築が主体性をもつものだと言っているのに、彼らの創った空間内に入っていくと、逆の作用を感じていました。空間があることによって精神が広がっていくんです。ずっとこの差は何だと思っていました。実は僕の初めてのクライアントはノイローゼ気味の方でした。ご主人が刑事で、奥さんは警察官舎の中にいることにすごい圧迫を感じていて、そこから逃げ出したいので家を建てるということでした。僕は医者でも坊主でもないので、圧迫された精神状態による苦しみを解決することはできないけれど、クライアントの気持ちを伸びやかな精神に変えることが家の設計でできると思ったんです。僕はコルビュジエやミースの空間から実際に体験しているので、建築にその作用があることはわかっていました。それを実現するべきだろうと取り組みました。

そういう条件を解決するための解答が全面ガラスだったのですね。「CRYSTAL UNIT Ⅱ」「CRYSTAL UNIT Ⅲ」という作品がありますが、同じクライアントですか。

同じクライアントではありません。

CRYSTAL UNIT Ⅱ

CRYSTAL UNIT Ⅲ
(C)大竹静一郎

圧迫感のない、広がるような空間のイメージをクリスタルで表現しているのが「CRYSTAL UNIT」というシリーズなのですね。現在のスタイルは徐々に変わってきていると思いますが、窪田さんのひとつのスタイルのベースになっているのがこの作品ですね。そして自分の思想が反映されているわけですね。

そうですね。ちょうどその頃は旭ガラスとかが元気な時代で、ガラスをどんどん普及させようという意識が強かったですし、世界的にもガラスを多様化させていこうという流れがあったし、日本でももちろんあったので、僕らはちょうどそこに乗ることになりましたね。

敷地がそれぞれ違っていますね。

「CRYSTAL UNIT Ⅱ」は住宅街の中にあって、他は全部詰まっていて、ここだけが抜けているんです。「CRYSTAL UNIT Ⅲ」は街中の昔は流行っていた旧道沿いのコーナーにあって、元々呉服屋さんをやっておられた歴史ある場所に建てるので、歴史を崩さないというときに、透明感を出して歴史との関係を繋げていこうと考えました。

この頃の作品ではあまり大きなガラスは使用していませんね。

そうですね。できる範囲ですね。

「Y-HOUSE」でグッと変わっていますね。「CRYSTAL UNIT」が窪田さんの建築スタイルの原点で、「Y-HOUSE」は真っ白で、フラットで、ガラスが大きい現在の建築スタイルに近いですね。

そうですね。常に製作可能最大寸法との戦いです。

Y-HOUSE
(C)窪田建築アトリエ

敷地を見ると海や崖に面したいい場所ばかりに作品があるのですが、こんなことが自分で選んでできるわけはありません。おそらく雑誌などで窪田さんが真っ白で、フラットで、クリーンな住宅をつくるというイメージが知れ渡って、仕事が入るのだろうと思ったのですが、実際にはどのように仕事が入ることが多いのですか。

ほぼ専門誌を見てですね。『住宅特集』か『新建築』か『GA』か。

そうでしょうね。窪田スタイルの潜在的なクライアントがいて、そういうクライアントが敷地を買うとすぐに窪田さんに連絡するのではないかと思うんです(笑)。だから窪田さんは営業をしなくても、作品を雑誌に発表することで、建築家がやりたいと思う素晴らしい敷地の仕事が入るのですね。

ハハハ…。

以前はまっすぐに繋がってフラットで大きなガラス1枚でしたが、「YAMAGUCHI PREFECTURE PAVILION/ in Yamaguchi」のときには屋根が2枚になっていて、変わったという印象をもちました。このパビリオンは今も建っているのですか。

いいえ。もうありません。

YAMAGUCHI PREFECTURE PAVILION/ in Yamaguchi
(C)窪田建築アトリエ

このパビリオンはどのように仕事がきたのですか。

コンペです。山口県できらら博という地方博覧会をやるときに、県の建築課の人たちが中の施設は県内の建築家にやってもらおうと決めたんですが、県内にはあまりそういう人がいないので、プロポーザル方式でやることにしたんです。多分窪田は応募しないだろうからと、この事務所まで来て、「とにかく出してくれ」と言われました。「出したら通るのなら出すけれど」と言ったら(笑)、「それはわからない」と。「ただメディアに建築家として出ているのは県内に窪田さんしかいないから、出すだけは出してくれ」と言われて、そこまで頼まれれば「頑張ります」と出して、選ばれました。

綺麗な作品なのに壊してしまって残念ですね。つくりは仮設だったのですか。

この後どこかに移設することができるようにということだったんで、恒久的な構造体なんですが、6か月間だけなので表面材は非常に簡単なものでやっています。坪20万円ちょっとのコストでできています。「Y-HOUSE」くらいから海外の専門誌が僕を取り上げ始めて、このパビリオンのときには『CASABELLA』の表紙になったり、国際賞に選ばれたりしていて、壊しにくいとずっとボロボロのまま残してありました(笑)。「CRYSTAL UNIT」シリーズではわざと単純な考え方で、透明で意識が広がりやすいであろうということを含めて、全部をより純粋に透明感を出していくというふうにやっていたんですが、どうも引っかかっていて、伸びきらないので、何かないかなと思っていました。ある部分を閉じて、広がりを抑えることが逆に強く広がりを出すんじゃないかと考えて、「Y-HOUSE」をやっています。やってみるとこっちのほうが相当に広がり感が強いんです。閉じているはずなのに、こっちのほうが広がり感があるんで、これだと思いました。またパビリオンは6か月で壊すという前提だったので、その頃にいろいろ思っていた斜めのカットとかを試してみようと、パビリオンでああ切ったり、こう切ったりして試しています。

そういえばパビリオンには斜めの線が出ていますね。「I-HOUSE」もスゴいですね。道路側からでは、牡蠣筏のこんなシーンが見えるなんて想像できません。そして「M-HOUSE」は木ですね。

作品群の中では唯一の木です。

I-HOUSE
(C)鳥村鋼一

M-HOUSE
(C)窪田建築アトリエ

木というのは施主の要求ですか。

錦帯橋のすぐ近くにあるので、法的に色とか、屋根の形状とか、いくつかキツい縛りがありました。屋根は切り妻でやろうとか、色は瓦色かアースカラーにするように言われていたりしていて、それを蔵のような形状にした場合には木造にしたほうが本質的には正しいはずだと思って、そこから逆算して考えました。

外的な条件で木になったのですね。NETで窪田さんの作品を見たときに、生活感のない雰囲気で写真を撮っているのだろうと思いました。竣工的な意味で撮っているからですか。

基本的には何もない状態で撮るようにしています。

「M-CLINIC」 は実際に使われているシーンを見たので、ちょっと安心しました(笑)。生活感のない印象があるのですが、住宅作品の中にはお子さんのいる住宅もあるのですか。

前半の頃には案外お子さんのいらっしゃらない方が多かったんです。この10年位はほとんどお子さんがいらっしゃるんじゃないですかね。

M-CLINIC
(C)窪田建築アトリエ

「M-CLINIC」は窪田さんがつくられてから売上はどうなのですか。

信じられないくらい流行っていますね(笑)。以前は近くのビルを借りて開業していたんですけれど、患者さんはその頃の3倍くらいになっています。

先生は大変ですね。

先生自体がいい先生なんです。その先生にほだされて患者さんが集まっているんですけれど、そういう意味では建築はバックアップみたいなものだと思っているので、先生の気持ちが反映されることが重要だと思っています。結論的にそれで患者さんが増えていくんだと思います。完成して一時的に人が来ましたというのとは違っていて、10年経ってさらに増えています。

2005年の完成ですが、今日拝見させていただいて、通りに面しているのに汚れが少なくて、まだ新しい印象を受けました。

商業用の施設なので何か月に1回は洗っています。


TOTOホームページの無断転用・転記はご遠慮いただいております。

Page Top