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品番がわからない場合


デザイン的特徴

デザイン的特徴
かなりラジカルなデザイン・コンセプトを実施

住居+アトリエの「カタガラスの家」は部屋がたくさんありますね。

鍋島氏:14部屋ほしいという要望がありました。

カタガラスの家 (C)DAICI ANO

仕切らないでアトリエから住居に何となく繋げていきたいということでしたが、ドアなどで切れてはいないのですか。

武井氏:仕事場と居住スペースの間は階段で切れていますけれど、おおよそは繋がっています。

「カタガラスの家」もよく考えられています。そしてクライアントからも喜ばれるだろうと思いました。でも「キリの家」はうまくいっているのか気になっていました(笑)。

鍋島氏:ぜひお越しいただいたら、考えが変わると思います。

武井氏:ご案内します。驚くべき発見がいろいろな場所に隠れています。

鍋島氏:「キリの家」では、まずクライアントから「裸足になってください」と言われます。お客さんは、最初は裸足になることに戸惑うのですが、時間が経つにつれ、裸足であることでリラックスするようで、いつの間にか、皆さん自然と寛いでしまいます。

それはクライアントが決めたのですか。

鍋島氏:はい。そのほうがいいと。クライアントの奥様が台湾出身なのですが、たくさんの客人に自分の家を踏んでもらうと、その家に福が入ってくるという言い伝えがあるそうです。

武井氏:足が刺激されると健康になるという旦那さんの意見もあり、確かに裸足で床を踏むという経験は懐かしくもあり、新しい体験だと思います。

坂本一成さんの自邸が坂になっていたのを思い出しました。ただ「キリの家」のように坂は長くありません。真ん中に大きな構造があって、まわりにスペースをうまく取っていますね。

武井氏:「キリの家」の大黒壁は一方が少し傾いています。上部にいくほど厚みが薄くなっていることは構造の合理性からくるものなのですが、上部にいくとスペースが広くなっていて空間を大きく利用できます。ダイニングに腰掛けると壁がちょっと傾いているので、背もたれとして効いています。家具と構造が一緒になっている感じです。

「モザイクの家」は、フィリップ・ジョンソンの「グラス・ハウス」のように壁にスイッチがありません。「グラス・ハウス」では戸棚の中にスイッチがありますが、「モザイクの家」では床の側面にあるのですね。またあの家は北側にキュッと曲がっていますが、北側から光を採っているのですか。

鍋島氏:「輪の家」でもスイッチを棚の中に隠しましたが、他の建物でもスイッチを見えないようにしています。「モザイクの家」では北側に開口はなく、北側に階段室をつくって、最上部のトップライトから入って来た光をリフレクターの役目をする曲がった壁に反射させることで、1階に光を届けています。

モザイクの家 (C)DAICI ANO

グラス・ハウス

僕も自宅をつくったときに建築家から北側開口部がいいとアドバイスを受けて、北側にピクチュア・ウインドウをつくりました。実際、南側から光が当たって隣りの家の柿の木が綺麗に見えています。「モザイクの家」には北側でも直射光が入るのですか。

武井氏:南側を向いたトップライトから光を入れて、北側の曲がった壁に反射させています。

そうすると光が柔らかいですね。それから「旋の家」の長くて凝ったスロープもスゴいですね。「サヴォア邸」のスロープを超えています(笑)。外から中、外。そして中もグルっとスロープです。そしてまた外に出ます。その出たあとはどうなるのですか。

鍋島氏:行き止まりになりますが、物干スペースと、屋上へのアクセスにもなっています。子供室の机の前の窓台になっているので、鉢植えを置いたりします。

旋の家 (C)DAICI ANO

サヴォア邸

「旋の家」のスロープもこちらからの提案ですか。

武井氏:そうです。スロープを提案したというよりも、いろいろな活動が起きるように幅の細い、少し傾いた床を巻き付けたといったほうがいいと思います。実際、室内サッカーのゴールになったり、寝そべって本を読んだり、ベンチになったり、いろいろな使われ方をしています。

アプローチもグルっと回る感じですが、途中で面倒だと上がってもいいのですか(笑)。

武井氏:はい。その時の気分に応じて自由に使っていただいて全く問題ないです。

鍋島氏:縁側のようになるので、ベンチとして使ったりされているようです。

結構歩かされることになりますね。

鍋島氏:はい、歩きます(笑)。

身体にいいですね(笑)。高さの低いピロティがあります。あそこは寛ぐためのスペースですか。

鍋島氏:用途のないフリースペースなんですけれど、住人以外の人も心地よさそうと入ってくるそうです。特に近くに公園があるのですが、子供たちがそこに遊びに行く前の集合場所になっています。

ああいう案はどういうところから出てくるのですか。

武井氏:敷地が高級住宅地なので、隣地境界線から建物をセットバックしなくてはならないというルールがあるわけです。そのセットバックの距離が1.5mと微妙な間なのです。植栽で埋まってしまう。それだったら立体的な空地というか、足下にも緑地をつくって見通しをよくしたほうがいいのではないかと考えたのです。そうすればプライバシーを保ちつつ、もう少し街を家の中に引き込める。同時に正面に富士山が見えることもわかっていたので、できるだけ建物を高くしたいとも考えていました。しかし条例で2階までしか建ててはいけない場所でした。だから3階にはならない高床という案が出てきました。

なるほど。あそこはピロティですが、裏側が見えるのですか。

鍋島氏:裏のお宅の庭が見えます。

武井氏:他の家の緑を借景として街に庭を提供している感じです(笑)。

思いのほか正面から見ると細い建物なので、横は結構空いていますね。

武井氏:建物の幅は、セットバック一杯まで広げています。おそらく建物が浮いているので、横が空いているように感じるのだと思います。

贅沢ですね。高床のあの半地下の空間は、一見すると中途半端な空間なので、やるのには勇気がいると思いますが、その有効性も見抜いていてのことなのですね。それからブリーズ・ソレイユもスゴいですね。あれは角度がどちら側にどれくらい付いているのですか。

鍋島氏:地上からの目隠し代わりにもなっています。よって逆に日射しが入ってくる方に角度が25度程付いています。

中で電気をつけても外からは見えないのですか。

鍋島氏:隣地からの離れと、地面からの見上げ、そして水平に除いてもルーバーに隙間ができないようなピッチになっているので全く見えません。でも室内からは見上げることで、空や公園の緑などの外が感じられるようになっています。

全体では扉のように開くのですね。

鍋島氏:はい。もちろん視界を広げたい時や、窓の掃除の時に開くのですが、クライアントがその日の気分やイベントによって開閉しているようです。例えば来客の時には道路側を開けて、人を迎える時のサインみたいな使い方もしています。

「森のとなり」というのは共同住宅ですか。

鍋島氏:専用の玄関をもつ長屋形式の集合住宅です。林試の森公園に接して敷地があり、とても良い環境だったので「森のとなり」と名付けました。

武井氏:旗竿状の敷地だったので、建物にT時型の天空通路を設けて、全ての住戸の玄関を並べました。メゾネット形式で重層長屋ですが、すべてプランが違っています。

森のとなり (C)DAICI ANO

構の郭 (C)DAICI ANO

「構の郭」は白い大きな垂れ壁で下が空いています。下から見えてしまうのでは。

鍋島氏:隣りが幼稚園ですので子供の目線で見える部分がありますが、植栽などで視線をコントロールしています。壁で全部を覆おってしまうと息苦しくなってしまいます。適度な抜けも考慮しています。

武井氏:敷地は元々分譲住宅地で八区画に分かれていました。クライアントは奥の四区画を購入されて大きな敷地にまとめていたんです。一区画で十分の広さはあるのですが、その4倍の敷地において住宅1件を通常の建ち方で建てると、大きな庭と母屋とそれを取り囲む塀という豪邸になってしまう。調べてみると、この場所は城下町だったんです。だから文教施設が密集していて、由緒正しい場所でした。周りに城壁や堀がまだ残っている風景を見て、もう少し外と内が繋がった、緩やかな仕切りとしての郭(くるわ)で建築をつくろうと考えたのです。

中は幅のある梁が複雑ですが、あれは構造的に必要なのですか。

武井氏:外部、内部問わず、すべて梁で繋がっていて、構造として効いている部材です。

すごくカッコいいですよね。

鍋島氏:白い垂壁は実際には1枚1枚白く塗った木を張ってあります。木塀です。周囲には漆喰を使った塀もあったり、周囲に馴染むように質感のある塀にしています。

そうするとそんなに重くないのですね。木造には見えないし、コンクリートでは重たいだろうしと思っていました。次にはどんなアイディアが出てくるのでしょう。寝る時間がないのでは(笑)。

武井氏・鍋島氏:(笑)。

住宅作家の方から「住宅の設計は大変なんですよ」と聞きますが、これからも住宅の設計は続けていかれますか。もう次の作品の設計をされているでしょう。

武井氏・鍋島氏:はい。これからも住宅の設計は続けていきたいと思っています。


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