閉じる

品番がわからない場合


将来の展望

将来の展望
不特定多数が集まる交通施設や町の雰囲気を醸す劇場をつくりたい

では最後にプライベートなことを聞かせください。いつも趣味を聞くのですが、建築家はほとんど皆「趣味はないと」言います(笑)。おふたりはどうですか。

武井氏:その通りです。建築が趣味みたいなものですから(笑)。昔、中学、高校と部活でクラリネットを吹いていましたけれど…。

今は続けていないのですか。

武井氏:続けてないです(笑)。

僕の飲み仲間にはバンドをやっていて、バーなどの公の場所で演奏している人も多いですよ。

武井氏:そうですか。今は自分で演奏するよりもっぱら聞く側になっています。

忙しいのですね。

武井氏:建築に携わっているといろいろな職業の方とか、趣味の方とかに会う機会があります。その方たちと話をしていると、何か一緒に楽しい気分になってしまう自分がいます。だから、それで満足してしまうんでしょうね。自分で改めて別のことに取り組むという気分にはなかなかならないです(笑)。

グロピウスが「すべての芸術は建築の傘下にある」というようなことを言っています。あまりいい言葉ではないと思いますが、建築はそういう芸術の入れ物みたいなところもあります。そうするとそういう芸術家とやることになりますからね。

鍋島氏:そうですね。わたしたちのクライアントの中にもクリエーターやデザインに関わっている方が多くいらっしゃいます。一緒に建築を考えていると幅広い芸術を知る機会になります。

武井氏:設計を依頼されるクライアントの方にはいつも感心させられます。住宅というと非常に個人的な趣味で建てているように思われているかもしれませんが、決してそうではありません。私たちのクライアントは、皆さんそれぞれ自分の家が建つことで街からどのように見えるか、どういう風景になるか、とても気にされるのです。自分だけの建築ではない、街のものという意識があるのではないでしょうか。だから私たちも、内部の生活のことだけを考えるのではなく、家のほんの少し廻りの社会とどのように関係性をもつのかということを、毎回考えたいと思っています。

建築家には社会的な責任がありますね。地球に建築を1件建てると自然破壊になりますから。木を3本切るくらいなら許されますね(笑)。鍋島さんはどうですか。

鍋島氏:趣味かどうかわからないんですけれど、私たちは劇場をいつかつくりたいと思っています。ですから必ずどこかに出張に行った時には、その街の劇場へ訪れるようにしています。建築を見て、そして空間を体験しに行くのが楽しみです。

武井氏:そういえば、『ヨーロッパ建築案内』1、2、3は淵上さんが執筆されていていますよね。その本を片手に昔から建築を見ています。

『ヨーロッパ建築案内』

ありがとうございます(笑)。

鍋島氏:『ヨーロッパ建築案内』には写真付きのメインの建築だけではなくて、最後に文字だけで書かれた数ページがありますよね。地域ごとに、見るべき建築が網羅されている部分を必ず見ます。

建築が羅列されているページですね。正直に言うとあれは全部を僕が書いているわけではありません。僕はメインを書くのが精一杯で…(笑)。

鍋島氏:そうだったんですね。でもそういった、複数の情報が同時に知ることができる本はあまりないですよね。

あの本も古くなってしまいました。

武井氏:新しい建築はインターネットを検索すればすぐわかりますから、それはそれとして調べるんですけれど、これからも海外に行く前には必ず『ヨーロッパ建築案内』で調べてから出掛けることにします(笑)。

劇場の設計は難しいですね。でもどんなものにも最初はありますから…。

鍋島氏:そうですね。でもいつかは。

武井氏:新しいホワイエをもった劇場をつくりたいですね。できるかわかりませんが、もっともっと街に開かれた場所。ホワイエって、ちょうど建築と街の中間にあると思うんです。

鍋島氏:皆、ホワイエで専門的な音楽の話だけでなく世間話をしています。そういう時間と空間、雰囲気が大事だと思うのです。

最後にどんな建築をつくりたいですかと聞きたいと思っていたのですが、劇場ですね。

武井氏:コルビジュエが、ホワイエはリビングだと言っていて、なるほどその通りだなと思ったんです。毎回、違う国の劇場に行きたくなるのも、その街のリビングを垣間見たいからなのかもしれません。間接的にその街の生活に触れるとでもいうのでしょうか。

鍋島氏:音楽を聞きに来る方の雰囲気も当然違ってきます。人と建築が一体になっている風景をいつも楽しみにしているというのもあります。

僕も出張の際にいくつかの劇場を訪れていますが、インターミッションでシャンペンを飲むことだけが楽しみで、真面目に見ていませんでした(笑)。

武井氏:確かに、音楽を聞きに来ているのか、アルコールを飲みに来ているのかわからないですよね(笑)。でもその雰囲気はとても好きです。音楽が高尚なものではなく、暮らしの一部になっている感じが。だからホワイエの空間も広々としていて気持ち良いんでしょうね。

鍋島さんも何か音楽をやっているのですか。

鍋島氏:いいえ、特にはしていません。よく音楽を聞きに行くようになってから、劇場をつくりたいと感じ始めました。

劇場のコンペがあるといいですね。

武井氏:あとは空港や港のような交通施設。やはり不特定多数の人が利用する場所、人々をおおらかに覆う建築は魅力的ですね。そういう多様性を包含する建築は、これからコンペによって設計する機会が増えると嬉しいです。

鍋島氏:カラトラヴァは土木と建築の間のような建物をつくっていて、そういう街全体の景色をより良くするようなことが、日本でもできたら素晴らしい事だと思います。

サンティアゴ・カラトラヴァ

本日はありがとうございました。       

インタビュー風景


TOTOホームページの無断転用・転記はご遠慮いただいております。

Page Top