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品番がわからない場合


未来への道程

未来への道程
屋根デザインのさらなる発展に興味

少し個人的なことを聞かせてください。建築家には「趣味はない」と言われることが多いんですが、木下さんの趣味は。

ないです(笑)。

何かあるでしょう(笑)。

プライベートに関してかなり興味の幅が狭く、自邸をつくることにもあまり興味がないんです。でも結果的に今自分のつくった「マガリカドの家」に住んでいます。これはリフォームなんですけれど、まだシーラカンスにいる頃に、『住宅特集』に掲載されることになって、慌てて小泉さんと小嶋さんに「こういうのをやっています」と連絡しました(笑)。自分用に設計したわけではなくて、賃貸としてリフォームして、回り回って、今自分たちが住むことになりました(笑)。

マガリカドの家
撮影:木下昌大建築設計事務所

仕事ばかりしていて、家で叱られませんか(笑)。

子供ができたので、子育てはちゃんとしているつもりです。自分では(笑)。そういう意味では、家族でごはん食べたり、旅行にいったりというのが趣味といえば趣味なのかもしれません(笑)。

海外に行く機会があると思いますが、何か刺激を受けた作品などはありますか。

学生の頃に、テレビ番組でバックパッカーで世界中を回るというのが流行っていて、建築学生の中ではバックパッカーというものがピークでした。だからバイトでお金を貯めて、3年生の時に友達とふたりで、バックパックを背負ってヨーロッパを回りました。淵上さんの『ヨーロッパ建築案内』が出版されたばかりで、皆お金を貯めてヨーロッパを回るんですけれど、皆同じ本を持っているんで、日本の普通の観光客がいないような美術館で同じ学部の同級生に出会うんです(笑)。

『ヨーロッパ建築案内』

それでよく売れたんだ(笑)!嬉しいですね。

『ヨーロッパ建築案内』は3冊とも持っています。あの頃の学生は脅迫観念のように、この本を持って、建築を見て回らないと建築家になれないくらいの感じがありました(笑)。

その時の旅行で一番心に残ったのは。

本に載っているところ全部を見てやろうと思っていました。全体で1カ月位回っていたんですけれど、パリだけで1週間近くいました。やはりヘルツォーク&ド・ムーロンが良かったですね。あとはピーター・ズントー「ブレゲンツ美術館」「テルメ・ヴァルス」ですね。よくわからなかったので、とにかく現代建築をひたすら見ていて、帰ってからもう少し古いものも見るべきだったと思いました(笑)。

      


ヘルツォーク&ド・ムーロン


ピーター・ズントー


ブレゲンツ美術館


テルメ・ヴァルス

その後には行っていないんですか。

その後も毎年のように行っています。最初の海外旅行から帰って来てから、オープンデスクというものがあることを知って、妹島(和世)事務所に行きました。オープンデスクに行っている時の次の年がヴェネチア・ビエンナーレで、当時まだ妹島事務所のスタッフだった石上(純也)さんが担当していました。オープンデスクが終わって京都に帰って、しばらくして石上さんから「ヴェネチアで仕事を手伝ってくれる人を探しているんだけど、どう」という電話がかかってきて、ヴェネチアに行くことにしました。それで石上さんやその他の事務所スタッフに混ざってヴェネチアで会場設営を一緒にやらせてもらいました。それが2回目のヨーロッパで、初めてヴェネチア・ビエンナーレを見ました。建物よりもそれが大きかったですね。生でジャン・ヌーヴェルとかザハ・ハディドを見て(笑)、こういう世界があるんだというのを知りました。ヴェネチアで色々なものを見て、その年にはオランダのほうも回って、OMAとかMVRDVも見ています。それでいつか手伝いじゃなくて、ヴェネチア・ビエンナーレに出たいと思っていて、その2年後には今度は岸先生が「ヴェネチア・ビエンナーレの日本館」をやることになって、その設営にも岸研究室の大学院生として行っています。だから2回連続ヴェネチアに行くことになりました。

      


石上純也氏


ジャン・ヌーヴェル


ザハ・ハディド


ヴェネチア・ビエンナーレの日本館での集合写真
(コミッショナーの磯崎さん、
日本館作家として妹島さん西澤さん、
スタッフの石上さん)
提供:木下昌大建築設計事務所

そうすると建築よりもイベントのほうが心に残っているんですね。

そうですね。

では最後に木下さんはどんな建築をやってみたいですか。

「一橋大学空手道場」以来、屋根のことが気になっていて、現代建築でも、ここ何年かで明らかに屋根が復権しつつあるじゃないですか。屋根がもう1回見直される背景には何があるのかというのと、そもそも屋根自体にどういう可能性が残されているのかというのも気になるところです。それで、実はすでに取り組み始めているんです(笑)。これは今基本設計中なのですが、先ほどの「SI REFORM 1」で仕事をさせていただいた、カナエルというガス会社の支社です。神奈川の国道246号沿いなのですが、道路沿いの敷地の向こう側は住宅街です。住宅街と大きな幹線道路の間に建てるというので、ひとつは住宅街のスケール感に合わせたいというのと、カナエルの会社のロゴが家型なんで、そのまま家型を使いながら、オフィスビルなんだけれど、住宅のスケール感が集まったオフィスビルはできないかなと思っています。周辺の風景との調和と象徴性という意味で使っているんですけれど、そうやってできた屋根形状というのが、もうちょっと環境的な役割や、その他の意味がもたせられるか考えています。

カナエルというガス会社の支社
撮影:木下昌大建築設計事務所

集落的なイメージもあり、カッコいいですね。

そうですね。家型と家型を重ね合わせると、もう1個小さな家型ができるじゃないですか。それをコアみたいな形にして構造をもたせられないかなと思っています。まだ色々な形の組み合わせをやっているところです。

「一橋大学空手道場」から発展しているんですね。

まだ手探り状態ですが発展させて、屋根の新しい可能性を見いだせないかと思っています。

考えていますね。今日は驚かされる話がたくさん聞けました。ありがとうございました。


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