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品番がわからない場合


多種の建築タイポロジー

多種の建築タイポロジー
個々のプロジェクトに緻密なデザイン判断を下す

それ以外のプロジェクトで面白いと思ったのが、「ポニー小児歯科クリニック」。この半円形の開口部はどういう発想からですか。

歯科医院の中でも小児を対象にしている場合の特徴は何かと考えました。歯医者は年に何回かしか行きません。でも大体同じところに行きますよね。小児の場合、小学生の間に身長がどんどん変わっていきます。そうすると目線がどんどん変わっていくんで、来る度に風景の広がりが違うようなことができないかと考えました。大人の場合には毎回同じ視線なんですけれど、子供の場合には視線が上がるにつれて、抜けが変わってくるんじゃないかと。背が高くなるにつれてどんどん奥が見れるようになって、その空間の広がりが年とともに変わるんじゃないかと考えました。

ポニー小児歯科クリニック
撮影:宮本啓介

そういう理由だったんですね。では「しまぶくろデンタルクリニック」の街道沿いに裾野を広げた大きな傾斜屋根の面構えはどういう発想ですか。

いわゆる郊外のロードサイドなので、車で通行する人に対して、歯科医院があるということを目立たせたいというのがクライアントの要望としてありました。建物を道路側に寄せて、奥を駐車場にしたら、建物が目立っていいんじゃないかという提案を最初にしたんですけれど、車社会では、車が停めにくいと思われたらそれだけで来てくれる人が減ってしまうため奥まで回すのはダメだと言われました(笑)。このエリアのコンビニがそうなんですけれど、手前が駐車場で奥が建物なんです。車を止める人にとっては、それが親切だというので、それはそのまま守ることにして、その状態でなおかつ建物を前面に押し出していくには、建物の壁をそのまま塀に変換していって、駐車場をグルッと巻けば、車も抱え込んで建物に見えるんじゃないかと考えました。

しまぶくろデンタルクリニック
撮影:中村絵

素晴らしいアイディアですね。「PROUD SAGAMI-ONO TRESAGE」というのは。

大学の後輩が野村不動産にいて、「デザイン監修に興味はありますか」と聞かれて、「やってみたい」と言いました。分譲マンションなので内部のプランまではいじらせてもらえなくて、何ができるかと思った時に、周辺が低い建物ばかりだったので、どうしても大きくなる建物を分節できないかと考えました。そしていくつかに分節して、間のスペースに、ペントハウス的なものが出てくるというのがいいんじゃないかと考えました。通常、マンションは下から上に金額が高くなるじゃないですか。でも分節すると、ここも最上階っぽくなって、最上階っぽい値段で売れる部分が増えます(笑)。

PROUD SAGAMI-ONO TRESAGE
撮影:SS Tokyo

木下さんは頭がいいですね。僕なんか全然考えつかないアイディアです。

海浜の高層マンションについて聞いたんですけれど、同じ小学校の中に同じマンションの子がいて、上のほうの階の子と下のほうの階の子でヒエラルキーができるらしいんです。そういうわかりやすい建物の上と下が、そのまま人間関係のヒエラルキーをつくる状態というのはあまり健全ではないと思って、それをどうにかミックスできないかとも考えていました。○○○号室が自分の部屋だというのではなくて、自分のマンションを見上げた時にあそこが自分の部屋だと特定しやすい状況のほうがいいんじゃないかと。こういう小さな括りにするとそれがわかりやすくなります。売主側にとっても買主側にとっても魅力的な提案になったのではないかと思うのですが、バリエーションが増えるとそれに伴う販売スキルも必要になるらしく、販売担当の方は大変だったようです(笑)。

ランダムに開口部の開いている「フクガンアパートメント」は、表情を変えたいという発想からですか。

前の道がバス通りで、通行量が多いんです。やはりクライアントが覗かれるのを気にしていて、大きく開口を開けられないけれど、開放感があったほうがいいと思いました。窓に対して立つ位置よって、景色の広がりが違うじゃないですか。外側から見た時には中が覗きにくいけれど、内側に立った時には窓に近づけば景色が広がるわけだから、開口率をある程度キープしながら、外側から見にくくて、内側から見やすいという状況がつくれるんじゃないかと考えました。コスト的には住宅用の既製品のサッシュのサイズを流用してやっています。反対側は公園で、緑が見えるのはいいんですけれど、公園側からも見られてしまうので、それも緑は切り取れるけれど、公園側からは中が見えないという状況をつくろうと思いました。全体の形状としては、四角い建物のこちらとこちらにスリットを入れて、パカッと開いているような形で配置しています。地下があって、地下は賃貸なんですけれど、そこにスリット状に三角形の光庭が入ってくるようにしています。

フクガンアパートメント
撮影:阿野太一

複雑な形ですね。「カザアナの家」は1階と2階に風の道がありますが、その他にも風が抜ける工夫はあるのでしょうか。

四角い平面をピッと斜めに切って、台形のLDKになっていて、そこを風が抜けるようにしています。

カザアナの家
撮影:阿野太一

トウキョウバルコニー
撮影:阿野太一

トウキョウゲストハウス
撮影:平井広之

建物の前の木は非常にいい目隠しになっていますね。

街路樹です(笑)。

うまく使っていますね。「トウキョウバルコニー」はバルコニーのプランが鋭角的ですね。

扇状の敷地でした。ベースは4.9m角の四角で、4層あるんですけれど各フロアで端っこを交互に引っぱり出して、テラスをつくっているという感じです。各階全部にバルコニーが付いています。

「トウキョウゲストハウス」というのは。

「JFEケミカル・ケミカル研究所」より先にやっていて、実質的にはこれが新築としては最初の作品です。実は独立する前にスタートを切っていて、こっそりやっていたんですけれど、竣工は独立してからです(笑)。敷地がかなり小さいんですけれど、クライアントから車も置きたいし、賃貸の部屋もつくりたいと言われました。

このクライアントは欲張りですね(笑)。

「どう考えても納まらないです」と言ったら、「1個1個の部屋はそれほど広くなくてもいい、小さいほうが落ち着く」と言われて、順番にひとつずつ縮めていったら、納まりました(笑)。自分自身がいかに慣習にとらわれているかをクライアントから気付かされた最初のプロジェクトでした。


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