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品番がわからない場合


住宅作品のコンセプト

住宅作品のコンセプト
家具的発想が建築コンセプトのベース

住宅作品の最初は「井の頭の住宅」ですか。

S&K:はい。リビタが古い社宅の建物全体を改修していたのですが、その内の1室はクライアントがリビタに頼んでもいいし、外に頼んでもいいということで、僕らが声を掛けてもらうことになりました。同じ建物の別の部屋をスキーマの長坂常さんもやっています。

どんな計画だったんですか。

S&K:対象となる建物は仕切りが多く、暗い印象でした。やりながら考えたい、というところが大きくあって、まず解体をすることになりました。とてもシンプルなコンクリートの構造体が現れて、ボードを貼っていたモルタルも水玉模様のように見えて、解体してみたときが一番いいなとなったんです。ただ外壁に面しているところはきちんと断熱を取るため、染色したOSBボードを貼り、建具を付けて、必要最小限の要素で慎重に計画しました。なるべくワンルームにして、どこにいても気配を感じられて、風も通るし光も入るような、一体感を出したいと思いました。ただその中でもトイレとか寝室とか微妙に分かれています。それらを一体に繋がりをつけたいと思ったときのアイディアとして、壁の真ん中にラインを巡らせることを考えました。コンクリートの壁は下半分だけにクリア塗装をして、OSBボードの壁は下を白の1回塗り、上を2回塗りとして繊細なラインを出しています。クローゼットのカーテンはNUNOにいらした安東(陽子)さんにつくってもらっていて、同じ柄で色違いのカーテンをここの線に合わせて繋いでツートンにしています。

安東陽子氏

安東さんとは古い付合いなのですね。

S&K: ふたりともシーラカンスK&Hや青木淳さんのところでも安東さんとやっています。「ルイ・ヴィトン表参道」の7階にギャラリーがあるじゃないですか。あそこのカーテンは全部安東さんがやっています。

「港北の住宅」はどうしてあの形になったのですか。

S:僕の高校のときの友達の両親の家で、75歳くらいのご夫婦の終の住処として頼まれました。

港北の住宅
撮影:阿野太一

それにしては派手な形態ですね。

S&K:僕らの初住宅だったので、やりたい放題やったように見えるかもしれないですけれど(笑)。ここには元々住まわれていた木造の住宅が建っていて、2階に住んでいた息子さんと娘さんが出られたことをきっかけに、改修することになりました。周囲が密集した旗竿敷地であったため、1階にあるリビングに光を取り入れるために2階をなくしたいということから始まった計画です。改修工事がこんなふうになっちゃったというのですから、もっと不思議なんですけれど(笑)。

この案が気に入ったわけですね。

S&K:そうなんです。クライアントから、朝から電気をつけているような暗い空間だったので明るくしたい、日が入るようにしてほしいと要望されて、プライバシーと光の確保が課題でした。ご主人は今でも世界中の造船工場を回って監督しているような造船技師で、最初は構造を造船で有名な気仙沼とかでつくれたらと思ったんですけれど、「もう船はいい」と言われてしまいました(笑)。3案出していたのですが、一番突飛な形のこの案は見せられないで、他の2案の模型をお見せして、その内の2案目の中庭タイプをすごく気に入っていただいて、扉の開き方も含めて案を詰めていました。夜も遅いので「帰ります」と言ったときに、せっかくつくってきたのだからともうひとつの模型も恐る恐るお見せしたら、「とてもいいね」となったんです(笑)。なのでくれぐれも僕らが強制したわけではありません(笑)。

その案を持っていったというのは設計者側としてはいい案だと思っていたのでしょうね。

S&K:自分たちとしては思っていましたね(笑)。

黒い「中丸の住宅」というのは。

S:僕の実家の近くなんです。母親の友達が頼んでくれました。大型犬を飼われているご夫婦の家で、大きなバルコニーがほしいと言われました。室内とほぼ変わらないくらい大きく張り出したバルコニーが特徴です。バルコニーの庇はまっすぐ出すと日差しを遮ります。なので、帽子のツバを跳ね上げたような形状の庇で光を取り込む提案をしました。

中丸の住宅
撮影:阿野太一

面白い素材の使い方だと思いました。犬のことを考えてのことですか。

S&K:木とかカーペットだと傷つきやすいので、滑らないタイルを使って、犬が引っ掻いてもいいような仕上げにしています。腰壁の高さまで木の素材が立ち上がっていて、白い天井が乗ったような構成をしています。

住宅作品を見ていて、トラフらしいと思ったのは大きな家具を置いている「目黒本町の住宅」です。住宅の中央を抜いているのですか。

S&K:床に穴を開けています(笑)。普段から付き合いのあるクライアントから自宅の設計を頼まれました。地下も屋上もあるビルの改修で、外階段しかないので2階と3階の住居を内部階段で繋ぐことから考えました。1階は将来的にここを彼らが趣味でやれるカフェのような場所にしようとしています。コンクリート造なのに、3階はフェイクの木柱が立つ個室がたくさんある空間でしたが、壁を取り払ってみたら、日の光が入る、とても開放的な空間でした。内部階段のために床に穴を空けて、階段の踊り場ともなる箱を置いただけのようなとてもシンプルな構成です。2階の箱は4面それぞれに違う機能を持っていて、その周囲に異なる室をつくり出しています。

目黒本町の住宅
撮影:阿野太一

キレイな空間ですね。

S&K:どこにいても家族の存在を感じることができ、2.5階ともいえる箱の上部はお子さんのお気に入りの場所になっています。

「大岡山の住宅」は段差のある床がそのままテーブルになっていますね。

S&K:そうです。建築をつくるときには家具をつくるようにとか、家具をつくるときには建築をつくるように、なるべく両者を横断するように考えています。これは言ってみれば、家具をつくるように建築をつくっていったプロジェクトでした。家具を集積していったような。壁をつくって、床を張って、その後に家具を置いていくのではなくて、家具の集積で家ができていけばいいかなと考えました。

大岡山の住宅
撮影:阿野太一

北大路の住宅
撮影:阿野太一

「北大路の住宅」もコンクリート打放しでドライです。

S&K:あの住宅は要望がすごく特殊で、プライバシー第一で、「港北の住宅」のような窓がない家をつくってくださいと依頼されました。だから一番多くの時間を過ごす場所がど真ん中にあって、まわりを部屋が取り囲んでいて、二重にバリアされているような感じになっています。でも部屋と同列に光を取り込む吹抜けがあることで明るいんです。

他の住宅も道路いっぱいに建てられていますね。

S&K:多層構造のようにコンクリートの壁が取り巻きながらも室内を明るくするために、容積を最大限に取りつつ、外部空間を取り込んでいくことで、開放的な場所をつくりたいと思っています。

家具的発想が、住宅をつくる際のベーシックなコンセプトなのでしょうか。

S&K:「大岡山の住宅」の場合には間口がすごく狭かったので、例えばソファを置いてしまうとテレビとの距離がこんなに近くなってしまうんです。そこで延べ床面積の規制緩和を利用して出窓を有効に活用することを考えました。つまり出窓をソファやベンチのように扱うことを提案した訳です。そういうふうにして家具と建築をセットで考えていくとか、等価に考えていかないと成り立たない。建築だけつくって、後で家具を選びましょうというのだと成り立たないくらいなことがあります。それでだんだんそういう考え方になっていきました。

住宅を設計する際にも家具的発想が重要な概念なのですね。

S&K:段差を利用して床をテーブル化すれば、とても広大なテーブルが出来上がります。それほど余裕のない寝室にテーブルを置くと、それだけでロスが出ます。そういった矛盾を解消したいと思いました。構造体を棚としても使っています。大きながらんどうのような空間を実現するために、耐力壁の間に板を渡して、棚やデスクとして使っています。


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