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品番がわからない場合


建築的な発想で

建築的な発想で
インテリア&プロダクト・デザインにも建築的敷地のアイディアを応用

建築家という肩書きで非常にマルチなデザインをやっています。どうしてそういう方向になったのでしょうか。

S&K:青木さんじゃないですけれども、面白いものは何でもやってやろうというスピリッツでいたからだと思います。物からとか、小さいところからスタートするというのは、最初の「テンプレート イン クラスカ」から通底していることです。学生の頃に見ていた建築の竣工写真には、人もいないし、物もないし、彫刻的な完成写真でしかないじゃないですか。そこにふたりとも共通して違和感を感じていて、やっぱり人も入るだろうし、物も入るだろうし、そういう全体で風景ができるべきなんじゃないかという思いがありました。物に興味がいったり、家具に興味がいったり、人に興味がいったりしていて、そういう興味がずっと続いているから、プロダクトの依頼もあるのかもしれません。

建築以外のプロダクトや会場構成なども、建築の発想がベースになっていると聞いたのですが…。

S&K:建築の発想というのがいろいろな面であると思っています。「椅子をつくってください」と言われることに結構困ったんです。それは特定の目的のためではない、自由すぎる課題に取り組むことへの難しさです。建築というのは敷地がありますけれど、プロダクトというのは使うクライアントから明確にこういうものがほしいと言われればいいんですけれど、敷地もクライアントからの要望もないとすごくフワフワとしたものになってしまうんです。どこでも使えるとなると住宅でも凡庸なものになってしまいます。逆に僕らはプロダクトでも家具でも敷地を与えてしまおうと。そういうふうに特殊解的な、敷地があって、ようやく計画を始めることができるんです。インテリアにしてもそこを敷地に見立てています。「テンプレート イン クラスカ」をやったときもインテリアというよりも、そこを敷地として捉えて、そこに建築を建てるような感覚で壁を挿入したことで、そのまわりが変わっていけると考えていて、プロダクトも同じです。

それは確かに建築的ですね。それで建築家であることが生きているのですね。

S&K:そうですね。敷地といってもそこだけしか使えないのではなく、共通性のある敷地を想定しています。例えばバルコニーの手摺りに引っ掛けて使うテーブルがあります。手摺りのタイプによっては引っかからないものもあると思うんですけれど。

何という作品でしたか。

S&K:デッキ材でつくっているので、「スカイデッキ」といいます。ネーミングも大事ですね(笑)。

スカイデッキ
撮影:吉次史成

pick-a-book
撮影:吉次史成

gold wedding ring
撮影:田村孝介

ノートに敷地を与えるという作品もありましたね。

S&K:「pick-a-book」といいます。ノートというと表紙をどうするかとかグラフィックの問題になると、やっぱりテイストだけの問題になってしまいます。テイストだけというよりは、その条件で問いを立てて、デザインで問題を解決していくというのが大切なのかなと思っています。ノートは使っているときだけじゃなくて、シチュエーションとしてはしまっているときもあって、使っているノートがわからなくなってしまったりするので、底辺を斜めに切っているだけなんですけれど、入れると飛び出してきて手に取りやすい。使い終わった後は逆さにすればピッタリ納まります。パッとアイディアが浮かんだときにすぐに引き出せるノートです。しまったときの佇まいを敷地として、そうすると建築的にも見えてきて、よく建築でも何m以上高いと敷地から飛び出せるというのがあって、看板が出ていたりしていますけれど、そういう建物のようにも見えてきます。

「gold wedding ring」は。

S&K:結婚指輪をつくってくださいという依頼があったんです。

まずそれが不思議ですね(笑)。

S&K:サッカーボールをつくってくださいというのも昔あって、サッカーボールもつくっています(笑)。その頃はちょっと驚いたんですけれど、今ではもう驚かなくなって、逆に別ジャンルのものの方が、どんな建築的な発想ができるかという楽しみもあります。最初だからこそ固定観念がないんですよね。建築とかインテリアでも固定観念をもたなくしようと思うんですけれど、指輪なんかだとまったく知らないので…。金にシルバーメッキをしてしまうなんて、ジュエリー的には相当タブーなことです。ただ建築的に考えていったのは、床でも仕上げたときが一番ではなくて、だんだん味が出てきます。指輪でも自分だったらどうしようかなと思ったときに、長い間付けていくにはシンプルなほうがいいなと思いました。そのなかでさらにデザインを考えたときに、時間の経過がわかるようなものにしようと。結婚指輪というのは普通の指輪とも違っていて、ふたりの人が同時期に付けていくものなんだなとか、時の経過を確かめられるものなんだなとか、そういった条件を出していくうちに、問いが立ってくるんです。そうするとデザインとしてはどんなふうに解決をしたらいいのかがだんだんわかっていくんです。

建築にもよく時間の経緯を取り入れます。やはり建築的な発想ですね。売れていますか。

S&K:売れています。日本の小さいギャラリーから出しているのでどうなのかなと思っていたんですけれど…。しかも結婚する人しか買いませんから、すごく特化しているじゃないですか。でも結婚する人は世界的に見ると結構いて、そういう人が人とは違うものを持ちたいと考えたときに、「リング」はシンプルだけど剥げ方で全部違うので(笑)、自分だけのものになります。

そうですね。しかも金が出てくるんですから…(笑)。

S&K:中国で偽物ができてしまっているくらいなんです(笑)。結婚指輪というのは扱うスパンが建築に近いんです。建築も何十年だし、結婚指輪も何十年も付けるものです。むしろ建築よりも長いかもしれません。住宅をつくるとしたら結婚してから何年か後ですが、結婚指輪は結婚してすぐに付けるものですから。

こんなに小さなものも建築と同じ発想なのですね。プロダクトなどいろいろな作品がありますけれど、人気ベスト3は。

S&K:やはり「空気の器」が知名度的にも一番ですね。一般の人も知っているというのはすごいです。あとは「gold wedding ring」、「コロロデスク」とか。「コロロデスク」は部屋と家具の中間みたいなものをつくりたいなと思ってつくったもので、顔だけ突っ込めば空間を認識できるということから、窓を開ければ開放的に使え、閉めれば自分ひとりの部屋を持てるというものです。

コロロデスク
撮影:伊藤彰浩

やはりニューヨークや青山にショーウインドウ付きの事務所が必要ですね(笑)。

S&K:「空気の器」は世界中からディストリビューターになりたいとか、ショップに置きたいというメールが毎日のように来ています。


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