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品番がわからない場合


緻密な住宅デザイン・コンセプト

緻密な住宅デザイン・コンセプト
巴里で学んだ菅原氏の自邸を時は流れる

住宅作品について聞かせてください。年号から見ると、「切通しの家」が一番古いのでしょうか。内部が幾何学的ですが、これはどういうところからですか。

こういうスタイルになったのは、Jakob + Macfarlaneのお陰だと思っています。なぜかというと、日本人って細かいし、洗練された素材に対する執着はすごいし、それに対して論理性を求めるじゃないですか。ヨーロッパに行って一番良かったのは、言葉がなくてもセクシーという正しさ、美しいという正しさがあります。Jakob + Macfarlaneは当然論理的に建築を説明しますが、実際に創作のプロセスに入ると、感動する形なのかとか、美しいのかとか、胸を踊らせられるのかといった単純なことが判断に大きく影響し、その後に言葉がついてきます。どんな建築家もそうだと思います。形がもつ正しさ、強さみたいなものです。この住宅を計画する初期の頃に思っていたのは、よくよく考えると人間は四角でできていないということ。人間の視野の状況も球体状に広がっています。適材適所必要なところ、ここは座っている、ここは立っているというような場所の居方みたいなものがあって、その状況を立体的にボロノイ的に取っていった結果としてつくったらどうなるかという試みをしていました。例えばカーテンをしないと決めていたので、光と風を入れるために窓際の通路にねじりを付けつつ、ここはメインベッドルームなので書斎がほしい、棚がほしいという事情を立体的に入れていくと、あの形が自動的に出てくる。木造的なグリッドに、要求される諸機能を立体的に並べて、歪ませた結果としてできる美しさなのです。

切通しの家
(C)太田拓実

その通路部分が切通しという意味ですか。

そうです。

ホームページに出ていたこの「切通しの家」の切通しの写真はどこですか。

これはこの敷地の近くにある切通しです。人とものが自由に振る舞うプラットホームのような場所をつくりたいと思っていて、かつその場所の特性、その場所その時にしか現れない場所の骨格をつくりたいと思います。色々リサーチしたところ、切通しがこの地域に特徴的な地形として存在していました。お客様から話を伺っている時にちょうどそれがリンクしました。切通しって山を切り取ることで、こちら側とあちら側という違う世界を繋ぎます。この家も開発できない田畑の地域とニュータウンの境界に建っているんです。「切通しの家」がふたつのネイチュアとアーティフィシャルな世界を繋ぐ切通しとして機能するという意味も重ねています。

切通し
(C)SUGAWARADAISUKE

物語になっていますね(笑)。では「石切りの家」の外壁の色はどうして強烈なダーク・グリーンになったのですか。

「石切りの家」は生駒山の中腹に建っているので、生駒山と応答していくような場所を目指しました。あとは、お客様が使われているものに緑色のものが多くて、深い緑がお好きだということで緑を選びました。ここでは施工前にコンクリートを18パターン位試し打ちしたんです。わざと凸凹やモルタルのはみ出しをつくりました。それで何が起きるかというと、色付きや陰影が変わります。生駒山は状況や季節によって色が変わってきますが、この壁もまったく光が当たらないと暗い闇のように見えるんですけれど、光が当たると影の落ち方みたいなものも立面としての角度が違うので変わるし、色付きも変わります。生駒山の変化と応答して、建物自体も山のように変化していきます。生駒山の連続とした場所という感じでつくっています。

石切りの家
(C)太田拓実

難しい形ですが、機能空間が多いのですか。

これはすごくシンプルで、山があって、山沿いに並べて、あとはここに庭がほしいとか、この方向に視界がほしいとかいう要望をプロットして、歪めた結果としてできています。元々ある地形と住まい手の生活がインテグレートした結果としての形です。1個1個の部屋もボックスを積むことでできていて、色々な部屋の集合体としての家なんです。

最近の若い建築家はドローイング的なことがうまいですね。クライアントにとってそういう説明は視覚的でわかりやすいですし、言葉を補う説得力があります。

それは説明可能性みたいなことが、社会と繋がる時に求められているのかもしれません。共感とか共有とか。

次に先日拝見させていただいた「時の流れる家」について聞かせてください。この茶色の部分はコルテン綱ですか。

特種左官です。初めは黒炭色だったものが徐々に現在の佇まいになっていきました。

時の流れる家
(C)Jeremie Souteyrat

元はどういう材料なのですか。

鉄粉を混ぜた左官材です。壁の構成は普通の木造住宅と同じで、通気層があって、ラスがあって、最後にモルタルを防火用に塗って、その最後の仕上げが一般的な塗装ではなくて、この特殊左官なんです。それで不思議な見え方になっています。

時の流れとともに変わっていくのですか。

はい、そうです。外観と内観のふたつの時の流れがあると僕は考えていて、外観に関しては30年に1度建物が建て替わる中で、街並みに配慮した住宅を目指すわけじゃないですか。そうなった時に形とか素材を合わせても、8年に1回、向こう三軒両隣は建て替わってしまいます。そうするとせっかく形とか色を合わせても何もなりません。そこで信じられるものはその地域がもつ微気候、マイクロクライメイトです。生活の痕跡とそこの気候の特性がサビというものを通じて、状況をレコードしていくような、それによって土地と永続的に続く気候と今そこに住んでいる人の今の生活を繋ぎながら、そこの固有性みたいなものを再表現していく装置として、外観をデザインしたという感じです。

庭がグッと入り込んでいて、中もスゴイですね。

ベッドルームといわれる個室3つとオープンな場所、完全な外としての庭、壁に囲われた庭、壁と屋根に囲われた庭、完全に囲われているんだけれど室内としてはちょっと開かれた室内、いくつかの種類を用意しているんです。寝室は寝るためのコンパクトな部屋なんですけれど、住人はそれ以外に今言ったような色々な場所を、その時の気分とかムード、過ごし方、季節によって選択していく。多様な場所を住宅の中に詰め込む、その時の中心の役割として庭が機能しています。

この家はどの位の広さですか。

全部で76m²です。

広く感じますね。

コンセプトでいうと普通は庭と家が分けられますけれど、それを分けないで敷地全体を居場所と計画したことなどがあげられますが、その中で一番大きい理由は敷地の対角線上に視界が抜ける場所があることです。これは普通の住宅地ではあり得ない視野です。半透明なつくり方とか、風景を抽象化するという方法も使っているんですけれど、それにプラスして敷地の対角線20mが見えるというのがかなり特殊な状況で、それが広さに圧倒的な力を与えています。

半透明な部分は何で囲われているのですか。

あれは二重メッシュでできています。外側は先ほどの特殊左官をした生鉄で、内側は室内の白と合わせたメッキした白で室内の延長としてつくっています。網目を90度角度を振って張ることで、距離によって雪の結晶のようなパターンが見えます。同時にレースのカーテンのような機能をしていて、正対したときしか向こう側を見通せません。角度があると斜めからの視野を切ってしまうので、広がりをもちつつも閉じられたような雰囲気感をつくっています。

これもユニークな住宅です。住宅では次々とアイディアが出るようですね。「陸前高田市の仮設住宅団地」はどのように仕事が来たのですか。

ちょうど「切通しの家」をやっていて、建てていた大工集団さんと震災後に何かできるのではないかと、現地にボランティアをしに乗り込んだんです。たまたま地元の木材で仮設住宅をつくっていらっしゃるという住田住宅産業さんを知って、瓦礫撤去をした後に、「我々に手伝えることはありませんか」と話を聞きに行ったんです。素晴らしい木造の仮設住宅のユニットを震災前に設計されていて、準備もされていました。すでに住田町という陸前高田の隣町に建っていたんです。解体のことも考えているし、電源がない時の建て方も考えていて、よそ者の僕らがやることがないと帰ったんです。そうしたら翌々日に電話があって、長屋式は今までに建てたことがあるけれど、今度の敷地はオートキャンプ場で、既存のインフラがあって、一戸建て型で建てなければいけないと。彼らは当然建物のプロだけど、都市計画的な視点で考えたことがない。そこを手伝ってくれないかという電話でした。その次の日の早朝の新幹線で陸前高田に向かって、敷地を見て、徹夜で配置計画の案を練って、図面を起こしました。次の朝、完徹のまま県庁に行って、自然の環境を生かした仮設をつくろうという交渉をしてから、東京に帰って来ました。

陸前高田市の仮設住宅団地
(C)太田拓実

そうすると住宅はすでに設計されていて、菅原さんは配置計画を行ったのですね。

そうです。

配置を見ると仮設住宅にしてはスペースを取っていて、庭もあって、普通の家より敷地が広いくらいです(笑)。キャンプ場だったのですね。

陸前高田はご存知の通り、リアス式の街で、海岸沿いはほぼ全滅。そうすると建てる場所がなくて、白羽の矢が立ったのは、市内から30分程離れた広田半島の高台にあるキャンプ場でした。既存インフラも走っているということで、候補地が選ばれて、住田住宅産業さんが指定されました。僕がやったことはふたつあって、配置計画とインフラの計画なんです。壁があって、視野が抜けると結局皆さんカーテンを閉めてしまいます。そうすると自殺してしまう方が増えたり、コミュニティが断絶されていきます。そこで考えたのが捻るという操作で、ズレによって住戸間の視線が合いません。捻りによって、畑をしたり、洗濯物を干したり、犬を飼ったりするような庭ができます。プライバシーとコミュニケーションの場所を同時につくる、そういう配置計画の提案をしたのがひとつです。もうひとつはプレファブ協会の仮設の基準では、掘り起こして、水道、下水、電気を新設しないといけないんです。そうするとオートキャンプ場で育まれた自然を掘り返さなければいけないわけです。本当は既存インフラが使えないんですけれど、色々な交渉をして、ちょっとした浄化槽と電柱を加えた以外は、成熟した自然を保ちながら、仮設住宅の開発ができました。このふたつしかやっていません。このふたつによって、建物をつくらなくて、良好な環境を設計していく建築という職能を僕自身も気付かされました。

仮設住宅という感じがせず、永続的に暮らしていけそうです。

日本でもそうですけれど、海外でも評判が良くて、フランスの国営放送とか、色々なものに載せてもらいました。

菅原さんの作品は世界の建築雑誌で取り上げられているものが多いですね。


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