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海外学体験

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オランダの建築に影響を受けている

藤村さんに初めてお会いしたのはGYREでのイベントのときでした。イベントには磯崎(新)さんが参加されていましたね。

はい。「CITY 2.0 WEB世代の都市進化論」という展覧会です。1962年に磯崎さんが西武百貨店で開催された「未来の都市と生活」展という展覧会で展示した「孵化過程(インキュベーション・プロセス)」というインスタレーションがありました。それを1997年に水戸芸術館で開催された展覧会で再現して、そこで制作された模型が1台余っているというので15年ぶりにGYREで再現してくださいました。

磯崎新氏

展覧会「CITY 2.0WEB世代の都市進化論」
(C)藤村龍至建築設計事務所

エンディングで石膏をベタベタと投げつけたパフォーマンスは何なのですか。

磯崎さん流の「切断」の儀式です(笑)。東京の航空写真の上に見た人がどんどん釘を打って、それに針金を自由に巻き付けていって、いろいろな形になっていくのを展覧会会場で作品として展示して、最後にそれに磯崎さんが石膏をまいて固定するというものです。「都市というのはルールくらいはつくれるけれども、形はコントロールできなくて、われわれ建築家はときどきそれを固定したと見立てて作品と呼ぶくらいしかできないのだ」という、磯崎流の都市の見方を表すものです。それを50年経った東京の現代のコンテクストで、インターネットなど新しいWEB環境ができてきた中で再評価しようというものでした。

藤村さんはその展覧会でキュレーターをされていたのですか。

そうですね。

それはスゴいですね!藤村さんにお会いしたのはそのときが最初でしたが、よくネットで見ていて、親しい感じがしていました(笑)。魅力的な提案をされているので気になっていて、いつかインタビューをしたいと思っていました。

ありがとうございます。

出張が多そうですね。

最近多いですね。

国内の出張は週に何回くらいですか。

多いときには週の半分くらいありますね。大学が始まると週1回くらいです。

出張は海外もあるのですか。

たまにはありますが、まだあまり多くはありません。

そういう出張の際に見る他者の建築についての印象や、気に入った作品があれば教えてください。

基本的にはオランダ建築が好きです。ちょうど建築を勉強し始めた1990年代後半がオランダかスイスかという時代でしたので、私の世代はどちらかにいくことが多くて、私はオランダ派でした(笑)。自分の中での一番のヒーローは レム・コールハースですとか、MVRDVだと思います。
その少し前ですけれど、最初に海外に行ったときにはもう少しハイテックの建築家の作品を見ていました。リチャード・ロジャース、ノーマン・フォスター、レンゾ・ピアノ、それからザハ・ハディドがちょうどインテリアだとかちょっとした集合住宅をやっていました。そういうものを淵上さんの『ヨーロッパ建築案内』などを見ながら回るような学生生活を私も送らせていただきました(笑)。

レム・コールハース

MVRDV
(C)Allard van der Hoek

『ヨーロッパ建築案内』

ありがとうございます(笑)。そういう作品からいきなり現在の藤村さんの作品に飛ぶわけにはいかないと思いますが、そういった作品からの影響というのはありますか。

やっぱりコールハースの「ジェネリック・シティ」というコンセプトは、ストレートに反映されているような気がします。

「ジェネリック・シティ」というのはどの本に出てきますか。

1995年に『S,M,L,XL』という本が出て、いろいろな雑誌に取り上げられていました。ちょうどコールハースがバブルの頃、磯崎さんに呼ばれて福岡のプロジェクト等で日本によく来ていて、日本の都市から「ジェネリック(普通)」な都市や建築のあり方を学んだといいます。それが開発の時代に育った自分たちに跳ね返って来ているのだと思います。
もっと直接的なところでいうと、コールハースやMVRDVがよくやっていた絵本のようなプレゼンテーション手法にも影響を受けました。分厚い本をつくって、1枚1枚めくりながら、「1ヴィジュアル・1センテンス」というルールで、大きな模型写真やダイヤグラムに1文ずつ添える、というプレゼンテーションです。彼らが大学のスタジオだとか事務所の中でつくっている本なんです。実際にオランダに行ったときに見せてもらうと、彼らは最初のシンプルなところ、例えば面積は何m²にするべきかというところから、配置はこうするべきで、次に素材はこうするべきでと1個ずつプレゼンテーションしていくんです。あのやり方は自分の中では、影響を受けましたね。

『S,M,L,XL』

ヨーロッパには古典や近代の建築もたくさんありますがそれは見ていますか。

もちろん最初に海外に行ったときにはやはりコルビュジエとミースを見なくてはと思って(笑)、パリに行って「サヴォア邸」を見て、バルセロナに行って「バルセロナ・パビリオン」を見てという旅行をしましたが、どちらかというと私はミースよりはコルビュジエのほうが好きです。やっぱりコルビュジエのメディア的な側面が面白いと思うんですね。

サヴォア邸

バルセロナ・パビリオン

ザハ・ハディド
(C)Mary McCartney/Courtesy Zaha Hadid Architects

コルビュジエはメディアを使うのがうまいですね。ミースは自分で1冊も本を書いていませんから、宣伝はあまりうまくありません。そういう近代の建築も見ているけれど、影響を受けているのは「ジェネリック・シティ」なのですね。先日、「国立競技場」についてインタビューを受けたものを読みましたけれど、すごくよくまとまっていました。そこで藤村さんの「国立競技場」についての意見を話していただけますか。

結果的にいうと、ザハの「国立競技場案」は見積もり金額が想定より高かったとは言えると思うんですけれど、イニシャルが高くても収益の上がるものをつくって回収しようというプロジェクトだったと思います。イニシャルが高いということが国民感情としてどうしても受け入れられないということだったので、白紙撤回というのは仕方がなかったとは思います。
私が気になっているのはザハの名誉がどうも守られていないということです。プロジェクトとしてキャンセルして1回仕切り直さなければいけないということに関しては仕方がないと思うんですけれど、発注者の責任が重いので、ザハの名誉を回復する必要があるかなという気がしています。

いいものができるといいですけれどね。


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