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品番がわからない場合


設計スタイル

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藤村流の極意は「超線形プロセス論」と「プロトタイピング」

他の事務所で修行をしたというのはあるのですか。

ほとんどないです。ベルラーヘから帰って来て、博士課程に戻りました。東工大の研究室では実施プロジェクトをたくさんするので、それが訓練になりました。塚本先生がたまたま中国でかなり大きな別荘地開発のプロジェクトをされていたんです。結局実現しなかったんですけれど、山本理顕さんがマスタープランを描いて、その山本さんの元で塚本さんと小嶋一浩さんと西澤立衛さんと宇野求さんが住宅を設計されていました。かなり大きな別荘地開発で、塚本研究室の担当だけで2万m²ほどありました(笑)。

すごい規模ですね。

「それを研究室でやっているからチーフとしてやってほしい」と言われて、「面白そうだからやらせてください」と言いました。ちょっと図面をまとめるだけだから2か月で終わると言われたんですけれど、始めたら最終的に3年くらいかかったと思います(笑)。そこで図面だとか、ディテールだとかを集中的に覚えました。打合せに通うんですけれど、私たちのチーム以外は各事務所のエース級の方が来られていて、私だけが何もわからないという状態でした(笑)。
でも中国の設計院というところでその方たちの横に1日いるといろいろ覚えていくんですよね。設計が本当にうまい方というのは、例えば「石の小口をアングルで抑えて、笠木を回して…」というように、設計する手順を口で全部説明するんです。それを聞いているうちに、その通りに描いていくと図面が描けるようになって、それでようやく自分で矩計が描けるようになりました(笑)。

いい勉強になりましたね。

ですから博士課程に戻ったといいつつ、就職したようなものでした。学費を払って仕事をするようなもので(笑)、今思えばいい修行の機会になりましたね。

その後事務所を開かれたのですね。

友人のひとりだったベラ・ジュンさんが仕事があるからといって誘ってもらって、いっしょに設計を始めました。やがて集合住宅の話を頂いて、それをやらせていただきました。

その集合住宅の仕事はどのように来たのですか。

大島滋さんという方のご紹介でした。といっても最初はクライアントに検討してもらうために、ヴォリュームを描いてくれる人がいないかということで、「藤村は中国で大きな仕事を担当しているみたいだから、ちょっとやらないか」という感じでお声を掛けていただきました。最初はヴォリュームだけだったんですけれど、気に入っていただけて、あれよあれよといううちに図面ができて、実施することになったんです。実はインテリア以外の新築の大きなものというのは、それが初めてだったんですけれど、『新建築』に掲載されました。

それは何という作品ですか。

それは「PHOENIX BUILDING」です。

PHOENIX BUILDING
写真:鳥村鋼一

それはひとりの作品ではないのですね。

ベラさんとユニットとして設計しました。その仕事が終わったくらいのところで別々にやろうということになり、改めてひとりでスタートしました。

藤村さんはまだそれほど多くの作品はありませんが、多くのイベントを手掛けています。事務所を運営するのに建築設計とイベントとの比率はどのようになっているのですか。俗っぽい言い方をすると、どうやって儲けているのですか。

設計料収入と非設計料収入が半々くらいではないでしょうか。最初の「BUILDING K」が私にとっては結構大きかったものですから、フリーペーパーなどをつくる余裕ができたんですね。その後にリーマン・ショックで、いろいろなプロジェクトが止まったりして、ちょっと苦しい時期もありました。今はイベントや展覧会の仕事はセーブして、代わりに行政やまちづくりNPOからのまちづくり支援業務とか検討業務が増えてきました。

設計料は並みですか。「批判的高額主義」ではないですか(笑)。藤村さんはプロセスに非常に時間をかけているので、「批判的工学主義」の工学を高額と考えてしまったのですが…(笑)。

並みかむしろ低額くらいです(笑)。ただ当初から効率よく設計できるようにいろいろ工夫はしていました。模型をつくるのは基本的に学生にお願いして、図面は社員しかやらないんですけれども、大学で教えていたこともあったので、彼らが勉強になって、かつ面白いと思って取り組める範囲で作業をお願いすることを心掛けていました。学生のモチベーションが続かないとなかなか事務所に来てもらえないので、彼らがちょうど学びになるなと思える範囲でやるのが大事で、そういうのを意識して、自分では「塾」と呼んでいました(笑)。

藤村さんのところは塾的ですよ。藤村流の設計手法、メソドロジーは学べますよ。「批判的工学主義」の建築というのはどういうものなのですか。

大衆的でありながら、大衆に流されない建築、みたいな感じです。東浩紀さんという方が日本型大衆社会のことを「動物化する社会」とか、「工学化する社会」とおっしゃっていて、ショッピング・モールとかタワー・マンションというのは、自動的に設計されると言うんです。誰かデザイナーが意志をもって設計するというのではなくて、マニュアルに沿って自動的にでき上がっていくんだと言っていて、それを東さんは人文的に揶揄するような感じで「工学化」と言っていたんです。
ただ私は、東さんの指摘に膝を打ちつつ、課題を解決するとか、論理的に組み立てるとか、そういう工学のポテンシャルをきちんと生かして、合理的につくっていくやり方もあるんではないかということで、社会のリアリティを半分受け止めつつも、それをちゃんと建築的に解決していくんだというつもりで「批判的工学主義」と言い出したんです。

その例としてIKEAの話をしていましたね。

そうですね。ヨーロッパでIKEAに初めて行ったときに、ものすごく感動したんです。なぜ感動したのかというと、すごく建築的な考え方で店ができているからです。全世界どこに行っても同じ大きさでできていて、同じ平面でできていて、かつ全部2階建てという形式になっています。入口でまず2階に上げて、2階は一方通行でショートカットはなく、リビングスペースとかベッドルームとかを見せて、最後歩き疲れた頃にいきなりカフェテリアが広がっていて(笑)、ミートボールとかを食べられるようになっています。階段を降りると1階に倉庫が広がっていて、上で見た家具が番号順にズラッと並んでいて、箱を取って会計をすると、外に出られるようになっているんですけれど、出たところにまたホットドックなどが売られていて、また買っちゃうみたいになっているんです(笑)。ここまで消費者の心理というものを手玉に取りながら、それをしっかり建築的につくっている商業空間はないと思います。

なるほど。

調べてみたら、IKEAの創業者は建築出身なんですよね。他方でこれは情報的な考え方も含まれているように見えました。コンピュータ・システムではインターフェイスで情報を平面的に見せておきながら、奥の見えないところで計算するというのが一般的な形式です。インターネットも、サーチ・アンド・ブラウズで検索する場合とネット・サーフィンしてウロウロする機能とがハイパーテキストという構造でできています。IKEAはそのサーチ・アンド・ブラウズという構造を建築でうまくつくっていて、2階でブラウズして、1階でサーチできるようになっているんです。情報化社会でとるユーザーの行動をインターネットとは違う形で建築に落としているなと思って、これは何か名前を付けて、分析しなくてはという思いがあって、IKEAなどはよく例に出しています。

「批判的工学主義」の建築を生むにはアトリエ派が組織事務所的に、逆に組織事務所がアトリエ派的にやるのがいいと、藤村さんの本に書いてありました。確かに大手は工学主義的です。ミースなんかも同じで、シカゴ時代の頃は例えば「IBMオフィス・ビル」「フェデラル・センター」はかなり似ているし、所員に「建築は毎回新しいものをつくるのではなく、前のものを純化していくもの」というようなことを言っています。ミースの時代にはまだサイバー空間がなかったので、彼は工学主義でストップしています。それを引き継いでいるのは藤村さんではないかと感じています。

それは光栄です。

IBM本社ビル

フェデラル・センター

「超線形プロセス論」とはどういうつくり方ですか。

「ジャンプしない」「枝分かれしない」「後戻りしない」と言っているんですけれど、そういうふうに設計の方法を直線的にして、何を考えているかをその都度明らかにしながら、次の案を考えていくというふうにしていくと、建築の設計が生物の孵化過程みたいになっていくというものです。

オートマチックにいきそうな感じですね。

そうですね。工学的だと思います。

それはトライアル・アンド・エラーみたいなことになりますか。

フィードバックとも言えますね。

藤村さんの場合にはトライアル・アンド・エラーではないですね。間違いではなく、次々とそれ以上の模型をつくっていくという感じで、直線的に進むのですね。

エラー的なものも含めて、付けてみたら大き過ぎたとか、そういうことはありますよね。そういうことを次の案ではちゃんと1個前と今出した案を統合した形でつくるというのが基本です。そうやっている限りは絶対に前に行くんです。そういう弁証法的なつくり方なんです。

藤村さんとしてはずっと続けたいやり方ですか。

そうですね。一生続ければそれはそれで作品になるかもしれません。

肩書きのソーシャル・アーキテクトとは普通のアーキテクトとはどう違うのですか。

今、カタカナで「アーキテクチュア」というとコンピュータのソフトウェアの互換性を保証する基盤のことを指すようになっていて、「アーキテクト」というとプロジェクトの構造や仕組みを設計する職能、という意味になり、近年では政治家や法律家を指すようになってきています。建築家はアーティストとかデザイナーと呼ばれることはあってもアーキテクトだと思われていません。
だからわざわざ「ソーシャル・アーキテクト」という呼び名を考えました。「ソーシャル・デザイン」というと単なる社会関係のデザインを指すこともあるんですが、それだけでなく、社会工学(ソーシャル・エンジニアリング)のようなマクロ的なアプローチを復活させる、というイメージももっています。


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