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品番がわからない場合


考え抜かれた作品群

考え抜かれた作品群
まあまあ案を超越する異常な努力

SPEED STUDIOを解散して、最初につくった事務所はここですか。

はい。ここで10年やっています。

事務所外観

事務所風景

こちらの事務所ではどのように仕事がくることが多いのですか。

雑誌を見て来てくれる方と、インターネットで調べていてうちに当たって連絡をくれる方と、あとは人の紹介ですね。

ビジュアルを雑誌とかインターネットで見て、すごくいい印象を与えるとか、頼みたいと思わせるんですね。ほとんど決まるのですか。

ほとんどではないです(笑)。最初に話をしてみて、頼みたいなと思ってくれれば、契約をして、そこから仕事が始まるんです。来てくれる方の中で成立するのは25%くらいだと思います。

なかなか難しいものなのですね。仕事を取ってからはどのように進めているのですか。

クライアントと契約したら、2カ月半くらい時間をもらうんです。2カ月半経ったら、1回目のプレゼンテーションをやるんですけれど、それまでにうちでやることは敷地模型をつくったり、そのプロジェクトに関係する法律を調べたり、あとは最初にお施主さんと契約をするときにいろいろ話を聞くので、聞いた話をよくよく皆で読み返します。そのあと僕は1日1案考えるんですね。そして次の日に僕の描いたスケッチを担当のスタッフに渡して、簡単な模型をつくります。ひたすらそれを繰り返します。

保坂さんの作品はしっかりしたものが多くて、特に住宅作品はよく考えられているという印象があります。調べていくと共通するひとつのコンセプトがありました。それは外と中の関係だと僕は思います。

外と中とか、自然の話というのがメインなんですけれど、つくり方はプロジェクトごとに違っていて、結果的にそうなるんです。体験したことのないような自然との接し方とか、空間というんでしょうか。そういう何かを超えたいんですね。何を超えたいかというと、ケースバイケースなんですけれど、それが新しさとか鮮やかさとか新鮮な体験というか、イメージというか、そういうものにたどり着けると思うんです。案をつくってみて、そういう可能性を感じるものであればいいんですけれど、結構うまく納まっているし、お施主さんの言っていることも納まっている、予算とか敷地にもうまく合っている。だけど普通の回答というか、誰でもこういう回答はあり得るなという感じだと、これはまあまあいいけど、すごくつくりたいという気持ちにならないということがあるんです。それを“まあまあ案”と呼んでいるんですけれど、まあまあ案は5個くらいやると1個くらい出てくるんです(笑)。そうすると30個くらいつくると6個くらいのまあまあ案があるんです。まあまあ案をつくるために建築をやっているわけではないんで、何かそれを超えた自分でもいいと思えるような自然との接し方とか、空間のあり方というものにたどり着くことを目指してやっています。

それが保坂さんの住宅コンセプトの狙いなのですね。それで外と中との関係に異常な努力を発揮するのですね。

そうですね。ちょっと異常かもしれませんね(笑)。

例えば「屏風ヶ浦の家」は床が曲がっていましたね。

あれは敷地が60m2しかなかったんです。60m2の土地に建蔽率50%なんで30m2で、3階建てが建てられない地域で、容積率が100%までなんで1階が30m2、2階が30m2だと60m2にしかならないんです。4人家族では狭いので地下もつくってほしいという要望があって、そこから始まったんです。地下1階地上2階だと、地下は暗くて、湿気があって、風通しが悪い。家の3分の1の環境が悪い地下というものを受け止められなくて、地下と地上を同じ設計のやり方で同じ環境につくれないかと思ったんです。それで床を曲げるという簡単なやり方なんですけれど、それによって地下と地上をまったく同じ天井高で、地下の窓と地上の窓が全部同じ高さで、同じ開き方で、同じ向きで、地面より上に窓があります。そうすると1階と地下の違いは床の曲率くらいの違いでしかなくなって、地下と1階と2階を基本的に同じ原理でつくることができているんです。一般的には地下に光を入れようとすると、ドライエリアというのは土を掘って、掘られたところに対して窓を付けます。

屏風ヶ浦の家
撮影:KOJI FUJII / Nacása & Partners Inc.

そうですね。

地上と地下では建築の設計方法が一般的には違うんですけれど、同じ方法で地下と地上をつくってみたいと思ったんです。本当に風がよく抜けて、光もちゃんと入ってくるんです。地上面に窓をもっているので、1階に入る光と地下に入る光が近いものがあります。

よくこういうアイディアが出てきたなとビックリしました。

曲面になっているところはもったいないという考え方もあるんですけれど、曲面になっているところにテレビ台があってテレビを置いたり、あと曲面になっているところに螺旋階段を設けたりして、曲面になっているところも実質的な面積としてある程度使い切って、光と風を入れるための曲面でもあるんです。この辺にいると天井面がグーンと上がっていくので、天井高がそんなにないにもかかわらず、空に向かって高さを感じます。

1回体験したい空間ですね。「DAYLIGHT HOUSE」はアクリルドーム天井に自然光を拡散させて、1年中自然光の下で生活ができると聞きました。トップライトの下側にアクリルドーム天井があるのでストレートに空は見れないのですか。

2カ所だけ見れる場所があります。

こういうすごく進んだアイディアにお施主さんの反応はどうでしたか。

お施主さんにもよるんですけれど、大丈夫な方は本当に大丈夫で、「DAYLIGHT HOUSE」のお施主さんも提案したらビックリされるというよりは、喜ばれました(笑)。

DAYLIGHT HOUSE
撮影:KOJI FUJII / Nacása & Partners Inc.

周囲を高い建物に囲まれていて、ガラス張りにしてしまうと上から見えてしまいますからね。

10階建てのマンションなどがボンボン建っていますから…。

そういうことも考えると、この回答は素晴らしいですね。「川口邸」の場合にはトップライトが長くドーン、ドーンとあってスゴイですね。

「川口邸」は平屋ででっかいトップライトを設けているんですけれども、幅が800で長さが8m近くあるんです。本当に空の下みたいな明るさです。こういう断面ですけれども、まわりに2階建てとか3階建てが建っていないので、ゆったりした敷地割りでした。大きなトップライトで透明につくって、隣に2階建てがあると部屋の中が丸見えになってしまうんですけれど、こういうことができるロケーションだったのでできました。全部透明のでっかいトップライトをつくるという機会はなかなかありません。

川口邸
撮影:KOJI FUJII / Nacása & Partners Inc.

外と中の関係にこだわるというのは、どういうところから来たのですか。

大学生のときに横浜でひとり暮らしをするのに、鉄筋コンクリート造でできたワンルームマンションに住み始めたんですけれど、鉄のドアをガチャンと閉めると、中は密閉した空気感で外をまったく感じられなかったんです(笑)。3年間くらい住んでいるうちに耐えられなくなって、大学4年のときに引っ越したんです。外を感じるということは人間にとって大事なことだと、すごく当たり前のことかもしれないんですけれど、改めて思ったんですね。田舎で生まれ育って、田んぼとかに囲まれて家があると、窓を開ければ蛙の合唱が聞こえてくるような環境で、常に自然が生活の中にありました。都会では窓を開けたくらいでは自然をそうそう感じられないので、やっぱり一歩踏み込んで、自然を感じる状況を建築でつくっていきたいと思ってやっていますね。

なるほど。小さな開口部がたくさん設けられている「ROOM ROOM」のクライアントは障害のある方のようですが、そのための配慮がされているのですね。

聴覚障害のあるご夫婦と、子供さんのコミュニケーションを行なうことも兼ねる、20cm角の開口を壁や屋根、床にもたくさん設けた住宅です。この住宅も光と風が縦横無断に通り抜ける気持ちのいい空間になっています。

ROOM ROOM
撮影:KOJI FUJII / Nacása & Partners Inc.

INSIDE OUT
撮影:KOJI FUJII / Nacása & Partners Inc.

屋内と屋外の家
提供:保坂猛建築都市設計事務所

屋内の家+屋外の家
撮影:MASAO NISHIKAWA

水戸の住宅
撮影:MASAO NISHIKAWA

アクリルの家
提供:保坂猛建築都市設計事務所

「INSIDE OUT」もすごいですね。

クライアント夫妻と猫3匹が住む家なんですけれど、家の中にもう1個家があるような構成で、家の中に太陽の光や雨風が入って、外部空間が家の中にあるような建築です。もともと猫ちゃんもマンションに一緒に住んでいたんですけれど、猫ちゃんも新しい家に越して来て、すごく快適に暮らしていているみたいです(笑)。

それからオープンハウスで見せていただいた「屋内と屋外の家」「屋内の家+屋外の家」という似た名前の作品がありますね。オープンハウスに行くとつい自分の家と比べてしまって、家に帰るのがイヤになってしまいます(笑)。

そんなことはないと思いますけれど…。「屋内と屋外の家」は、屋内のスペースと屋外のスペースをほぼ同じ面積にして、屋内と屋外が一体となった住空間にすることで、自然の変化とともに生活することができる住宅なんです。「屋内の家」はLDK、浴室、寝室といった一般的な生活の場で、屋外の家」は自転車書斎や家族の工房、植物部屋「やハンモックテラス、屋上など、外っぽい生活の場になっています。

どちらも内外空間の繋がりをテーマして、快適な空間を生み出して、ピタッとうまく決まっています。「水戸の住宅」はどうして3段になっているのですか。

あれは木がたくさん生えている斜面に面していて、その斜面に向かって屋内とテラスが段々でセットバックするようなつくりにしています。後ろ側には18階建てくらいの大きなマンションがあるので後ろ側には窓をつくらずに、オープンな部分が斜面に向かって開いています。かなりオーソドックスなやり方です。

開放されるとテラスと一体となるようになっていて、「水戸の住宅」もよく考えられています。「アクリルの家」は一見どこも開いていないようですが、中からは外部が見えるようになっているのですね。

そうです。1段目の白いアクリルはただの塀なんです。2段目のアクリルが1階の垂れ壁と2階の手摺りになっています。この垂れ壁と塀の高さの差が300くらいで、遠くから見るとスリットのように見えます。

中から見るとセットバックしているので結構幅があって、すぐ手前は見えませんけれど遠くのいい景色が見えます。これもグッドアイディアですね。

これはほうとう不動の息子さんで、専務さんでもある方の家なんです。ここに「アクリルの家」があって、この辺にほうとう不動本店があるんです。家からすぐ近くに働く場所があって、地元では皆がほうとう不動の専務さんと知っているので(笑)、家に帰って来たときには外からの目線を気にせずに過ごしたいけれど、河口湖というロケーション上、自然も感じたいと。

本当にみんなよく考えられていますね。


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