閉じる

品番がわからない場合


自然物と人工物の融合

自然物と人工物の融合
代表作「ほうとう不動」は富士山とワンセット

住宅以外の作品にはどんなものがあるのですか。

「アクリルの家」のクライアントのお父さんがクライアントになってくれた「ほうとう不動」です。

ほうとう不動
撮影:KOJI FUJII / Nacása & Partners Inc.

「ほうとう不動」の形はどういうところから出てきたのですか。

富士山との関係から出てきているんです。富士山を背にして、建物があるんです。最初にほうとう不動の社長さんから和風でつくってくださいと頼まれたんです。

和風でこういう形になったのですか(笑)。

ほうとう屋は古民家風の建物の中でほうとうを食べるというふうに観光客の人からも認知されているので(笑)、いろいろ和風を考えていたんです。あるとき富士山を描きながらどういう和風の建築をつくろうかと考えていたら、富士山を描いた時点で和風だなと思ったんです。富士山は誰が見てもジャパンという感じなので、富士山とこの新しい建物がひとつの風景として、ここを通りかかる人が認識してくれたら、セットで新しい和風の風景というか、風景で考える和風という感じで、こういうモコモコとした建物を富士山とセットで和風ですという形で提案をしたんです。

ほうとう不動の社長さんは何と言っていましたか。

大変驚かれて(笑)、社長さんの考えていた和風という範疇を全然外れていたみたいで、プレゼンテーションをして30分くらい、一言も口を聞かずに、煙草2箱くらいを吸い尽くして(笑)、その30分の間に社長さんはいろいろ考えられたみたいで、「これで行こう」と言ってくれました。

どうしてこの曲面になったのですか。

雲でもかまくらでもいいんですけれど、建物が建っているというよりは、富士山があって、人間がつくるので人工物ですけれども、自然物のようにザックリとボコンとつくりたかったんです。地面にただバカーンと架けたような、そんなザックリ感がほしかったんです。こういうところに窓を付けると、トップライトのディテールが出てきてしまって、建築っぽくなってしまうので、できるだけ開口部もザックリとつくっています。

なるほど建築物のようにしたくなかったわけですね。この建物の表面をペーパーで磨かせたせたという話を聞きましたけれど…(笑)。

これはエアコンのない建物なんで、外側に断熱のウレタンを吹き付けて、表面はガラス繊維の入ったGRCを左官で仕上げています。左官で仕上げると人間の手の痕がうっすらと出て、太陽の光が当たる角度によって、その手作業の痕がなんとなくわかるんです。曲面なので機械がかけられないので、それを消すためにはペーパーヤスリで磨くしかないんです。表面が1200m2くらいあるんですけれど、全部手がけのペーパーで(笑)…。曲面なので手でかけるとなると、足場がうまく全体にかけられないので、ロープですごい体勢になりながら、10人くらいで延々とやっていたんです。10人の労力でペーパーをかけると、辺り一面がシャーという聞いたことのない音になるんです(笑)。

手づくりですね。

そうですね。

ミースの「シーグラム・ビル」はファサードがブロンズでできているので、定期的に手で磨くのだそうです。大変ですよね。

「ほうとう不動」は1度だけなのでミースほどではないです(笑)。

シーグラム・ビル

本郷台チャーチスクール保育園
撮影:KOJI FUJII / Nacása & Partners Inc.

他に住宅以外の作品はどんなものがありますか。

「本郷台チャーチスクール保育園」というのがあります。木は後から植えたんですけれど、最初のイメージは木々がある中にグルグルと一筆書きでかき混ぜるという形です。フリーハンドのかき混ぜるという図を、木造でできるような3.6mのグリッドで描き直して、建物と木々が混ざり合うというか、かき混ぜられるというか、屋外と屋内もかき混ぜられるような感じです。メインが木造で、5つある中庭のところに鉄骨のフレームを入れています。

ほとんどがガラスで透明感のある建物ですね。

全部ガラスです。引違いのガラスなので、開けると自然通風ができます。

開け放すと光と風がいっぱいですね。幼稚園ですか。

1階が保育園で、2階がチャーチスクールというものです。チャーチスクールはフリースクールなんですけれど、小学1年から高校3年まで各学年3人くらい、登校拒否になった子とか、いろいろな子をこの教会で預かって、勉強を教えて、大検を取って大学に行くようです。

オフィスなどの作品もありますか。

南新宿の駅前で「代々木のオフィスビル」というのをやっています。3階の一部分にオーナーが住む場所があるんですけれど、あとはテナントで貸すタイプのオフィスです。

代々木のオフィスビル
撮影:KOJI FUJII / Nacása & Partners Inc.

特徴はありますか。

非常にシンプルな四角い建物です。オフィスなのでとてもシンプルな平面にして、天井高が2.7mで、床から1.8mまでが壁で、1.8mから2.7mまでの900の高さでハイサイドの窓を付けているんです。

開口部を小さくしているのですか。

そうです。だいたいテナントで貸すビルというのはワンフロアが200m2くらいで、半分に割ると100m2です。うちの事務所もそうですけれど、所狭しと本棚やプリンターなどのものを置いています。5つテナントの部屋がありますけれど、それぞれに使い方とか、家具の置き方が違っています。この規模で全面ガラス張りにすると、家具やコピー機の背中が外壁に出てきて、使われ方がみっともない状態になりかねないので、1.8mまでは壁にしています。そして上のほうを開口部にして、四面をガラスのハイサイドライトにしてあるので、そこから自然光が入ってきます。自然光も直射日光がガッツリくると、光が強いので、機械でやるサンドブラストではなくて、職人さんが手で砂を吹き付けるアナログなサンドブラストをガラスにやっていて、モヤモヤとした柔らかい光を四周から入れています。

そうすることで外から中は見えないですか。

うっすら見えるくらいですね。オフィスはブラインドを閉めがちなんですけれども、柔らかな光が入ってくるので、ブラインドを掛けないで使ってもらえていて、自然光の入るオフィスになっています。

考えていますね。「LAPIN」は段状になっていますね。

「LAPIN」は川に面しているんですけれども、川の護岸が斜めになっていて、人が歩く水平の部分があって、また護岸があって、道路があるので段状になっているんです。それをそのまま建物の形としてやってみたんです。川から道路を挟んで建物が建っていると、川は川、建物は建物という感じに切り離されてしまうので、それを段々でやってみたら、川の一部みたいになって、それがいいなと思ったんです。

LAPIN
撮影:KOJI FUJII / Nacása & Partners Inc.

住宅ですか。

1階がレストランで、2階と3階が住宅です。

「湧水パビリオン」というのは公共の建物ですか。

いいえ。妻の実家の庭につくったもので(笑)、すごく小さいんです。この壁の向こうは駐車場なんです。駐車場のわきに水が湧いていて、「この水は何とかならないか」と、お父さんに相談されて、この水をこういうふうに床に流して、屋根を架けたら、湧き水のほとりで休めるスペースができるし、家の南側の窓からレンガのテラスが伸びているので、繋がりもいいということでした。

湧水パビリオン
提供:保坂猛建築都市設計事務所

バルセロナ・パビリオン

ソーク生物学研究所

鈴木大拙館

フラットなルーフで、シンプルな感じがミースの「バルセロナ・パビリオン」みたいでカッコいいですね。では一般の人は見ることができないのですか。

ええ。ここで水が湧いて、ジャバジャバとこの床の真ん中を流れるんです。夏は湧き水の水温が低いので、冷たい水が流れるとこのコンクリートの床が冷やされて、このコンクリートの上に座布団を敷いて座ると、ヒンヤリとした時間をちょっと楽しむことができます。基礎のところに段差を付けているので、流れてきた水はチョロチョロと音が鳴って、道路側に流れていくんです。

ちょっと形が違いますが、ルイス・カーンの「ソーク生物学研究所」の水の流れているところのようです。そして谷口吉夫の「鈴木大拙館」のようでもあります。保坂さんは全然意識していないかもしれないのですが…。

ハハハ…(笑)。水の湧くところの一部分に深い場所をつくっておいてあるので、そこにスイカとかをドボーンと入れておくこともできます(笑)。


TOTOホームページの無断転用・転記はご遠慮いただいております。

Page Top