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品番がわからない場合


幾何学的作風の特徴

幾何学的作風の特徴
作品はジオメトリック・コンセプトで決める

小川さんの代表作群を見ていると、非常に幾何学をよく使っていると感じました。

淵上さんから言われて、「さすが」と思いました。僕は大学の1、2年生の頃に、最初に建築を勉強するときに参考にしたのが安藤忠雄さんなんです。安藤さんの幾何学によって解かれるプランの美しさと機能の絶妙な配置をかなり参考にさせていただきました。大学3年生の頃から安藤さんだけではなく、隈さんや妹島(和世)さん、山本(理顕)さん、坂(茂)さん、あとは海外の建築家のヘルツォークやレム・コールハースなど、いろいろな違う建築の解き方にも目を向けるようになりました。今でもプランを解くときに、幾何学の見えない線がちゃんと通っていないとイヤなんです(笑)。

見えないけれど通っているのですね。

安藤さんの作品でも、途中に壁がなくても、大きな壁としてその先でラインが繋がっていたり、多くの建築家がそういうことをやっているんです。やはり見えない線を非常に大切にしているので、幾何学的な形態になっていくんだと思います。

「Bellows House」は屋根面積が大きいですが、ああいうダイナミックな形を提案したときにクライアントは何か言いませんか。

全然。僕はいつもファースト・プレゼンで2、3案出すんです。ベストな提案をひとつしか出さないという建築家もいますが、僕はむしろいくつか可能性を出しています。クライアントに選ぶ楽しさをわかってもらいたいというのもありますし、いろいろな方向性があることも知ってもらいたいので、2、3案出しています。「Bellows House」においても最初に2、3案出して、違う案で動いていたんですけれど、何か違うなと途中で僕が思い始めて、その後にあの案を出して、クライアントと大きな模型を見ながら、内部空間などいろいろな調整をかけた上で、今あそこに住まわれていて、何の問題もありません。

Bellows House
撮影:阿野太一

建築に理解のあるクライアントなのでしょうね。普通の方では個人住宅としてはダイナミック過ぎてしまって…。

実は平面的には長方形の中でベタベタに綺麗に解いています。1階に各個室が綺麗に並んでいて、ホールがちょっと大きくあって、そのホールが吹抜けで上のリビング・ダイニング・キッチンに繋がっています。一番上のロフト部分に書斎として旦那さんの部屋があります。夏は涼しいらしいです。冬はちょっと寒いらしいんですけれど、耐えられないほどのものではありません。

あのデザインをクレームなく実現して、喜んでもらえるというのは実力ですね。

僕からすると施主力というのもあって(笑)、使いこなしてくれているというのもあります。

高齢者がひとりで住むための住宅プロジェクト「T-HOUSE」でも、うまく平面的なジオメトリーを使っていますし、隙間もうまく利用していますね。

あれはまだ予算の調整がしきれていないんです。外からは閉鎖的に見えながらも、隙間でチラチラと雰囲気を感じさせるようにしています。光と風はちゃんと抜けるようになっています。

T-HOUSE
撮影:OGA

正方形に内接する正方形となっていますが、何か定理があるのですか。

何とかの定理を使っているというわけではありません(笑)。2つの角度しかありませんから、すべてがランダムに重なっているわけではありません。ちゃんと基準はあるという感じです。

「Aqua garden」では水面上部をビームがすごく飛んでいてカッコいいのですが、あれは意匠なのですか。

あれは何のためにあるかというと、あそこは住宅街で隣りに民家が見えるんです。一番下に壁があって、その次にビームが2本、3本とかぶってくると、視界を遮るんです。だけど光は落ちてきて、風はちゃんと流れるんです。

Aqua garden
撮影:宮崎 富嗣成

なるほど目隠しになっているのですね。

そうです。決して無駄に、ただ装飾だけのためにあるのではありません。

お茶屋さんの「san grams」のファサードになっているテンセグリティもすごいですね。

基準は3Dの立体的な構成になるところを、平面状にやっています。

san grams
撮影:阿野太一

これはバックミンスター・フラー的でジオメトリックな雰囲気抜群ですね。どういう発想からああいうものができたのですか。

すべての構造をもたせているわけではないんですが、一部構造的な役割もテンセグリティが担っています。先端の庇がかなりロング・スパンに飛んでいるんですけれど、そのたわみをテンセグリティが…。内側と一番先端に柱が立っているんですけれど、その間をテンセグリティで固めています。ワイヤーの張力と木のピースの圧縮力、その力の連続で屋根の鉛直荷重を抑えています。

木が浮いている意匠のように見えますが、構造でもあるんですね。

そうです。あの仕事では結構予算を抑えています。奥に庭があって、庭を見ながらお茶を楽しめるスペースがほしいということで、街に対して間口を広く取って、庭に対しても間口を広く取って、引き戸で全開にできるようにしているんです。引き戸をガラス張りにして閉めても庭が見えるような形をつくりつつ、街に対しても少し開いて、街から庭が見えて、お店であることをわかってもらうようにしています。ただ両面ガラス張りというのは見せ過ぎなので、何らかの策が必要だと考えていたなかで、あのアイディアを出しました。ただいつも考えるのはああいうものが装飾としてだけで終わるのがイヤなんです。例えば5年後、10年後「飽きたので変えよう」と言われてしまいます(笑)。商業施設では違うデザインを付けようという話になりやすいんです。

さすがです。確かにそうですね(笑)。

それをそうさせないためにも、そこに構造的な役割を担わせると絶対に取ることができません(笑)。「森の教会」のアングルも装飾だけではありません。あれが屋根を支えていて、構造の柱にもなっているので、絶対に取ることはできません。

森の教会
撮影:阿野太一

かしこい!

そしてあの空間の雰囲気をつくる上で非常に重要な役割も果たしています。

意匠としてだけでなく、それが構造にもなるというハイブリッド性があるのですね。デザインと構造がカップリングされているというのが達者!他にそういう作品はありますか。

今のところ「san grams」と「森の教会」くらいかもしれません。だけど「Pleats. M」の折れ折れの形態というのは、一部鉛直荷重を受ける壁面の役割を果たしています。

あれは光によって綺麗に見えますね。

そういうことも考えています。時間とともに雰囲気がまったく違うものに見えるようになっています。

小川さんはもっと大きなものでもモニメンタルにやるのがうまいかもしれませんね(笑)。

ハハハ…。決して外観だけに意識を集中させているとも思っていません。特に「Pleats. M」はこの形態がそのまま部屋の内側、インテリアにも表れるようにしています。外観の見た目だけで終わるようなデザインにはしたくないとは常に思っています。

アスプルンドの作品にも「森の教会」があるのはご存知ですよね。

ええ。安藤さんの「森の教会」もつい最近できています。

森の教会(アスプルンド)

KIMUKATSUの土壁(開口部)
撮影:阿野太一

「KIMUKATSU」の土壁もすごいですね。アクリル部分も全部塗ってしまって、光が入らないときにはひとつの壁のように見えるのでしょう。

アクリル板を象嵌して、その上に0.5mmの厚さで海草糊と藁とすさを混ぜた土を左官しています。土ではあるんですが、藁感やすさ感がかなり強く出ています。昼間は太陽の光が強いので、順光で光が当たるとまったくどこが穴になっているのかわかりません。夕方になってくると、室内の人工の光が漏れ出てくるという感じです。

グッドアイディアですね。土を使うところは隈さん風でもありますね。

そうですね。「安養寺」で土のブロックをやっていただいた左官職人の久住章さんにお願いしたんです。

あの有名な久住さんを使うなんてすごいですね。

最初は「こんなことをやりたい」とメーカーさんに電話をして、「それは無理ですよ」と言われました(笑)。久住さんを知っていたので最終的には久住さんだと思っていました。「安養寺」の仕事を通じて電話番号も知っていましたので、携帯に電話をして「こんなことをやりたいんです」と言ったら、最初は久住さんも「いや、無理ですわ」と。光を透かせようとするなら、ヒビを割ったり、穴を穿ったり、それは物理的な隙間が空いているので、透けるのはわかるじゃないですか。「いやいや、そうじゃないんです。透かせたいんです。昼間は土に見えるけれど、夜は透けるように」と。「うーん。ちょっと検討しますわ」という話でした。数週間後に、段ボールで小さいパネルのサンプルがたくさん届いたんです。上から1枚ずつ見ていくと、ヒビ割れていたり、穴が空いていたりしていて、違う、違うと。最後に1枚だけ土の壁しかないサンプルがあって、これというのを久住さんが一番下に入れていました(笑)。それはまだ土をそのままやっているだけでしたので、技術的に雨や水を受けたりすると崩れ落ちてしまうので、それではダメだというので、また数週間かけて、久住さんにいろいろ検討していただきました。バケツの水の中に浸けておいても剥がれないという検証もした上で、やっていただきました。

そうですか。

だから危ういものではなくて、ちゃんと裏付けをした上でやっています。このアイディアも僕が小さい頃に香川県の田舎で泥遊びをしていて、ガラスに泥だんごをバーンとぶつけて、ベチャッとなったものが乾きます。それを部屋の内側から見ると、光が乾いた土越しに透けて見えるという経験があって、やってやれないことはないだろうという気持ちでいました。

なるほど。いい経験をしていましたね。

僕はそういうことに関して諦めが悪いんです(笑)。そこら辺の粘り強さは、中学時代のスパルタの中で培われましたね。スタッフに体育会系でどうこうということはまったくありませんが、僕自身には打たれ強さがあります。

それから驚いたのは「Garden tree house」。クライアントにとっての思い出の木を燻煙で乾かして使用しているのですか。

このデザインも危うい考え方だと思っているんです。これも木が構造になっているので、木をただメモリーとして残すということだけでやるのだと、ただのメルヘンの話で終わります。そうではなくて、新たな用途、機能を与えています。

Garden tree house
撮影:阿野太一

塚田邸(樹根混住器)
(C)六角鬼丈計画工房

パッと見ると意匠として使っていると思うのですが、やはり構造としても使っていたのですね。

もともと敷地に立っていたケヤキとクスノキを同じ配置で元に戻しています。たまたまこの枝振りがあるまま乾燥できる窯が香川県内にあったんです。それが長時間で燻煙の低温乾燥させるものだったので、本当にいろいろな偶然が重なっています。

住宅に木を入れている作品に六角(鬼丈)さんの「塚田邸(樹根混住器)」があるのは知っていますか。

はい。木がすごいのは1本足で立っているので、太い幹すべてに重心が通っているんです。最初どうなるか読めないところもあったんです。所定の位置にもって来たとき、梁の位置と上の枝分かれした幹が合うのかどうか。現場にもって来たら、ぴったりと線が合いました。1本足でバランスをとっているので、大きな重量のものはちゃんと芯が通っています。

そんなことがあるのですね。木は賢いですね。


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