高校までが香川ですか。

そうです。一浪して千葉の津田沼の先にある日本大学の生産工学部に入りました。

先生には誰がいましたか。

もう亡くなられましたが、丹下さんの右腕だった神谷宏治さんです。女性だけの居住コースに宮脇壇さんのクラスがあって、そこに中村好文さんが来ていました。居住コースに有名な先生方が呼ばれて来ていました。

そうすると丹下さんの遠い弟子になりますか。

僕自身は神谷研ではないですし、授業でも神谷先生に教わったことはないです。

大学時代には建築以外にスポーツなど何かやっていたことはありますか。

建築オンリーでした。なぜかと言うと中学のときのハンドボール部が今だったらニュースになるくらいのスパルタで、髪の毛をつかまれて引きずり回されたり、グラウンドに正座をさせられて太ももを踏まれたりしました。ただ全国大会に行くくらい強かった。ああいうところで精神的には鍛えられました。高校に上がるときに、香川県の強豪校の先生から「うちに来い」と電話をもらいましたが、建築の道へ行こうと思っていましたし、あのスパルタの世界にある種燃え尽きたんです。高校時代は燃え尽き症候群で、3年間ボーッとしていて、スポーツは一切していません。大学に入ってからやっと好きなことというか、目指した建築家の道に一歩近づけたというので、建築オンリーで、課題をやる他に4年生位から学生コンペをたくさんやりました。

大学の成績はどうでしたか。

一般教養などは要領よく取って、建築の成績は多分良かったですね。

隈事務所にはどのように入ったのですか。隈事務所に入るのは難しいでしょう。

大学院の2年間にコンペで賞を8個いただいたんです。

スゴいですね。

大学院の卒業間近のあるアワードの審査員が隈さんで、優秀賞をいただきました。それで懇親会のときに隈さんにアプローチをかけたんです。実は小嶋(一浩)さんと六鹿(正治)さんと隈さんが審査員のコンペで、僕はアトリエにずっと行きたいと思っていましたから、六鹿さんは組織の方なので、まず目の前にいた小嶋さんにアプローチをかけました。小嶋さんが「うちはまず1年間は様子見だ」みたいなことを言われたので、これはダメだと思って、隈さんに声をかけたら、最初は「うーん。わからないな」と言われたんです。その賞を取ったときに友人の瀬戸健似くんとふたりでやっていたんですが、その瀬戸くんが横から「こいつ8個も賞を取ってるんですよ」と言ってくれて、隈さんの目の色が変わって(笑)、「そんなに取ってるの」という話になって、それが10月末の出来事で、「年が明けたら電話を頂戴」と隈さんに言われたんです。それで僕は1月3日に電話をかけたんです。そうしたら隈さんが「今まだ仕事がないからわからないな。また電話を頂戴」と言われました。そうしたら今度は1月末に隈さんから電話があったんです。「明日から来れる」と言われて(笑)、「行かれません」と言ったら、「何で」と言われて、「卒業旅行の予定を取ってしまっていて、2月の頭から2週間ほど卒業旅行に行くんです」と。「じゃあ帰って来たら、また電話を頂戴」と言われて、帰って来て電話をしたんです。そうしたらまた「わかんなくなっちゃったな」と言われて(笑)、「そうですか。わかりました」と終わって、当時津田沼の近くに住んでいたんですが、永福町の木造モルタルのボロいアパートに引っ越しをしたんです。ちょうど引っ越した次の日、まだ荷物を解かずに寝袋で寝ていたんです。そうしたら隈さんの秘書の方から電話があって、隈さんにかわって、また「明日から来れる」と言われました。それが2月末か3月の頭だったと思います。また僕は「行かれません」と言って、また「何で」と言われたんで、「ちょうど引っ越したばかりで、役所の手続きを明日やろうと思っているんで、明後日からなら行けます」と、「わかった。今晩もう1度話をしよう」となって、その日の夜に隈事務所に行って、話をして、「明後日からよろしく」ということになりました。

その当時、隈事務所には何人位の所員がいたのですか。

僕が入った頃で事務の方も入れて15、6人でした。

そうすると事務所は今の場所ではないですね。

そうですね。CASSINA青山本店の隣にあったビルです。その前が青山1丁目寄りの木造で、あそこはまだ模型室としてあったので、あそこで模型をつくった記憶はあります。

原田さんや中村さんよりも小川さんは年下ですか。

原田さんが僕のふたつ上です。中村さんがひとつ上です。

そんなに続いているのですか。辞めた時期は。

原田さんが辞めて、僕が入ったんです。原田さんと中村さんは隈事務所に3年間いて、僕は5年間いました。あのふたりは本当に優秀な先輩です。