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品番がわからない場合


巨匠は巨匠に魅せられる

巨匠は巨匠に魅せられる
コルビュジエの生き方に共感

伊東さんは海外に行く機会が多いと思いますが、時間があれば建築も見ますか。

最近はそんなに見なくなりましたね。現代建築にあまり興味がなくなってきました。ザハ・ハディドやジャン・ヌーヴェルの建築を見たら面白いかというと、そうでもない。それは見たらすごいなと思うところはあるけれど、それよりこの間も南アフリカでサファリに行って、すごく感激した(笑)。ジープに乗せてもらって、2日間草原の中を走り回りました。

サバンナの夕陽
提供:伊東豊雄建築設計事務所

現代建築はそうだとして、20世紀の巨匠の作品やもっと古い作品で何か印象に残っているものはありますか。

今年の春に初めてシャンディガールに行きました。あれは感激した。特に「シャンディガール議事堂」の中はすごかった。

シャンディガール議事堂

議事堂の中に入ることができたんですか。

許可をもらって行ったのに門前払いで、今日は議会があるからダメだと言うんですよ。これを見に来たんだからこのままじゃ帰れないと言って、守衛と1時間位ずっとやり取りして張り付いていたら、妹島さんや西沢さん、名和(晃平)さんも一緒だったんですが、ついに向こうがシビレを切らして、守衛のボスが管理人室にいるからそこに連れていくから、ボスと交渉してくれと言われて、僕のワイフだけ行ったんです。そこでひれ伏すように頼んだら、「5分だけ許す」と言われたんです。入っちゃったら1時間でも2時間でも(笑)、午後の議会が始まるまで平気でした。あれは本当にすごいと思った。今年のハイライトでした。


妹島和世氏


西沢立衛氏


名和晃平氏
写真 : Nobutada OMOTE |
SANDWICH

僕は中には入れていないんです。

あれはひどいよね。

コルビュジエがつくった一番大きな空間なんですよね。

でっかいし、コンクリートが粗いし(笑)。赤色と黄色が強烈です。それはヨーロッパのコルビュジエとは全然違うと思いましたね。それから大きな手が風で動いているのにも驚きました。

「オープン・ハンド」ですね。ああいうモニュメントはコルビュジエ的ですね。他にも「幾何学の丘」とか「影の塔」「殉教者のモニュメント」もつくっています。そういうものを建物の側につくっているところが面白いですね。

そうですね。あとはアーメダバッドの「サラバイ邸」、カタロニア・ヴォールトだけで何にもやっていないですけれど、良かったですね。

オープン・ハンド

幾何学の丘

影の塔

殉教者のモニュメント

サラバイ邸

長嶋孝一さんのお嬢さんがサラバイさんと結婚しているんですよね。今はあそこには住んでいないようですけれど。

また住み始めるようですよ。サラバイさんと長島さんのお嬢さんから「いつでも1週間位泊まって行っていいよ」と言われたので、もう1回行きたいと思っています。

では都市で好き嫌いはありますか。

嫌いな都市はドバイ。たまたまサファリを見た帰りがドバイ経由で、ドバイも行ったことがないので、ちょっと歩いて来ようと思って1泊したんですが、あそこでは仕事をしないで良かったと思いました。台北とか、タイのバンコクとか、アジアの都市はみんな好きですね。ヨーロッパではバルセロナは好きですね。

機内ではどう過ごされているのですか。

それは酒を飲んでいますよ。酒を飲んで寝ちゃうというパターンです(笑)。

古い話ですが文化デザイン会議でご一緒した時に、伊東さんとカラオケに行ったことがあるんです。その時に初めて伊東さんの歌を聞いたんですが、うまいんですよ。

下手の横好きです(笑)。

その後も僕らがやっていた飲み会の西荻フォーラムに伊東さんも来てくれた時に、伊東さん、早川(邦彦)さん、六角(鬼丈)さん、石井(和紘)さんが歌っていました。中でも伊東さんと石井さんはマイクを握ったらはなさないという噂になっていました(笑)。最近もやっていますか。

最近もやっていますよ(笑)。

それは日本だけですか。

台湾でも(笑)。台中の施工をやっている建設会社のボスがカラオケ好きで、CDまで出しているのですが、この間、60、70人のパーティがあって、始まったと思ったらいきなり出て歌えと言われて、「大阪しぐれ」を歌ったら、その後に台湾語で同じ歌を歌うんです。そのボスのほうがうまいから、僕はダシに使われたんです(笑)。台湾のカラオケもすごいですよ。ひとつの建物の中で3,000人位が歌っていますから(笑)。

バルセロナにはそういうところはないんですか。

バルセロナでは歌ったことがないな(笑)。

以前、隈(研吾)さんはイチローで、伊東さんは松井秀喜だという話をされてましたが、それはどんな中身でしたか。

それは隈さんがギャラリー・間で展覧会をやった時に僕がしたスピーチですね。隈さんはどんなクライアントが現れても、それをヒットにする腕を持っている。でも僕は3割打てなくてもいいから、たまにホームランを打ちたいんだという話をしたんです(笑)。

最後になりますが、自分が思う理想の建築というのはどういうものですか。

年ごとにコルビュジエの建築に惚れてきています。最後にカップ・マルタンで死ぬじゃないですか。最近見に行ったんだけれど、あの20世紀の巨匠がああいうベニアでつくった小屋(キャバノン)のようなところで、裸になって絵を描いたりなんかしている。年とともに土に還っていうというのかな、自然の中に還っていく人間臭い豊かな建築になっていっています。初期に白い住宅をつくっていた頃には、けんかっ早くて、先鋭的なプロジェクトが多かったけれど、後年は土から還ったような建築で実に豊かです。最後にあんなに豊かで人間臭く死んで行った建築家はいないと思うのです。

それはコルビュジエの生き方です。

作品だけじゃなくて、生き方も含めてです。もちろんそんな巨匠の真似はできないけれども憧れますね。

「今治市伊東豊雄建築ミュージアム」は別荘ではないですけれど…。

まさにあそこの近くに小屋をつくって住みたいと思っているんです。そういう心境になってきました(笑)。

今治市伊東豊雄建築ミュージアム
撮影:阿野太一

今治市伊東豊雄建築ミュージアム
シルバーハット
撮影:阿野太一

あそこは景色がキレイでいいところですね。

夕日の時に「シルバーハット」にいると、本当にキレイで、この建築は最初からここにあったほうが良かったなと思うくらいです。

今日はお疲れのところ、本当にありがとうございました。


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