魅力の伊東デザイン
魅力の伊東デザイン
台湾で大人気の伊東建築
今回のギャラリー・間の展覧会でのメインはどの作品ですか。
メインというか、「台中国立歌劇院」1本に絞りました。まだ完成には至っていないので、この9年間の軌跡ということで、その最初のスタディから現状までです。
僕は今年9月の建築ツアーで「台中国立歌劇院」の中まで全部、藤江(航)さんの案内で見学させていただきました。その際に街を歩いていたら、伊東さんとリチャード・マイヤーが向き合っている写真をたくさん見かけました。何かあったのですか。
今、台中で超高級なアパートをやっていて、僕らのはすぐに完売してしまいました。次に同じクライアントがリチャード・マイヤーに頼んだので、抱き合わせにして宣伝に使われているんです。
「台中国立歌劇院」もやりつつ、その集合住宅もやっているんですね。
台北で煙草工場跡地の「松山台北文創ビル」は見られましたか。あのクライアントです。台湾に行くとあちこちに富邦銀行がありますが、富邦グループといって、台湾ではしっかりしたグループなんですが、そこでひとつあれをやったら、気に入られて、それで今台中でオフィスの「富邦人壽台中文心ビル」と集合住宅の「富邦天空樹」を頼まれています。
伊東さんは台湾の仕事が多いですがそれにはどういう発端があるのですか。
一番最初に「2009高雄ワールドゲームズメインスタジアム」をやって、あれがうまくいったので。
高雄スタジアムはコンペでしたね。
コンペティションです。そうしたら小さな国ですから、ガンガンいろいろなコンペティションのオファーがくるんですよね。
台湾ではいくつのプロジェクトがありますか。
高雄スタジアムをやって、「台北世貿広場」「台湾大学社会科学部棟」「松山 台北文創ビル」の4つ ができて、あと台中で3つですね。
「台中国立歌劇院」についてお聞きします。あのカテノイドの構造壁はすごいですね。
その前にベルギーのゲントでコンサートホールのコンペティションがあって、その時に外と中が通じているような、そういうコンサートホールをつくりたいと思いました。つまり屋外でコンサートをやっているみたいなホールをつくろうというところから始まって、それでいろいろ試行錯誤しながら、こういう構造のシステムに辿り着きました。ところがそのコンペティションでは全然理解されなかったんです。物理的にすらこの床はあるのかないのかまで言われて、すごくガックリして帰って来たところに、「台中国立歌劇院」のコンペティションが来たんで、これはもう1回チャレンジだと思って、それで同じコンセプトでやってみたんですね。
実際には台中とゲントでは、機能やフォルムが違うのでしょう。
規模も違いますので。ただオペラハウスだからコンサートホールよりも自由度がないんですよね。だからそれぞれのホールはある程度形式に基づいていますけれど、考え方としては外と中が繋がっているようなものということです。
入った時に迫力がありますね。例えばあのカテノイドの曲面壁と床の住み分けはどうなるんですか。床面積はどうなるんですか。
そうなんですよ。あれは誰も床面積を数えられないんです(笑)。
藤江さんに聞いたら、「30度のところで床と壁の仕上げを分けている」と言っていました。そうなんですか。
さあ、それは僕も知りません(笑)。
それからスケジュールは出しても守れないので、スケジュールは出さないというようなことを藤江さんが言っていました。
コンペティションの時点では2010年竣工でした。もう4年前ですよね(笑)。それで大ホールの席数は最初2010席だったんですが、毎年1席ずつ増えてきています(笑)。2015席で落ち着きそうです。
「台湾大学社会科学部棟」の図書館は「ジョンソン・ワックス」のような構造と言われることが多いですが、伊東さんは木漏れ日の中で本を読むシーンを想像していて、それを具体化するためにボロノイ分割をかけているということでした。
木漏れ日というのが最初にあったわけではなくて、あそこで柱をどう決めていくかという配置に何らかの幾何学を生み出したいということでした。その頃、うちの事務所にアメリカ人の優秀なスタッフがいて、彼が放射状の蓮の葉のようなパターンを描いて、それを組み合わせると、ずっと蓮の花がどこまでも続いていくような幾何学で、それを切り取って、ボロノイ図法によって柱の位置と屋根の形を決めました。ボロノイ図は例えばトンボの羽の中のパターンに見ることができます。その結果として、それを蓮の葉のような楕円形にしていくと、その間に木漏れ日みたいなパターンができてくるのです。「ジョンソン・ワックス」はまったく意識していたのではありませんが、そういう指摘もありますね。
「ジョンソン・ワックス」に似ていても、表層的に決まったものではないわけですね。
通常われわれが建築を考える時、グリッドに分割するじゃないですか。そうするとそのモデュールをズラしても、基本的に均等になっています。台湾大の図書館は3つの中心があって、3つの中心から放射状に伸びている幾何学、放射状のパターンから決まっているんで、3つの中心から近いところは柱が密に立っていて、だんだん粗になってくるんですよ。だからそれを感じてもらえると面白いなと思っています。「ジョンソン・ワックス」の柱は円の中心にあったんじゃなかったかな。
割とシンプルでしたね。「台湾大学社会科学部棟」は大きな四角い建物ですが、不思議なことに道路側から見ると思いのほかコルビュジエの「ユニテ・ダビタシオン」に似ているんです。
コルビュジエからはやはりいろいろ影響を受けているでしょうね、無意識のうちに(笑)。すぐ後ろに幹線道路が通っているので、それに対して、大きな壁をつくって、存在感を示さないとダメだと思いました。
それから「松山 台北文創ビル」、あの南側外観は、スクエアな建物に対してカーブして張り出しています。あれはどういう発想からですか。
すぐ近くで「台北ドーム」をつくっているのですが、あの辺には大きなヴォリュームのホテルもあって、その中に低層の旧煙草工場があるので、一方では都市的なスケールで受け止めないと対抗できないのです。でもこの古い工場ともどうやってヒューマンスケールの関係を結べるかということで、地上から迫り上がって、屋上の緑まで繋がっていくようにということから、あのようなパターンが出てきたのです。
「松山 台北文創ビル」の道路側では、「ユニテ・ダビタシオン」のように袖のところに色を塗っています。暖色系の色ばかりが選択されているのには何かあるのですか。
高速道路をどちら側に向かって走るかによって、青系と赤系でまったく変わって見えます。
今年の夏にバルセロナに行って、「トーレス・ポルタ・フィラ」「バルセロナ見本市・グランビア会場」を見てきました。「バルセロナ見本市・グランビア会場」ではRCの有機壁という言葉が使われていました。確かシンガポールの「VivoCity」でも。
あの辺はファサードのデザインですからね。展示場というのは大きな建物が大きなスパンで存在しているので、ファサードしかやることがありません。あとは佐々木(睦朗)さんにいかに構造的に大きなスパンを考えてもらうかということです。
「トーレス・ポルタ・フィラ」のホテル棟に近づいて行ったら、あの赤い部分がパイプでびっくりしたんですが、ああいうところにパイプを使ったのは。
ホテルなので、部屋を区切るために、放射状に壁が立たざるを得ない。構造的にはそれが下まで落ちていくから、そんなに無理なことはしてないわけです。あとはそれを少しねじれたような形にしていく。その時にねじれたということをどう表現するかをパイプでやったら、一番よくわかります。あれをパイプなしにただ赤く塗ったら、見え方はまるっきり変わったでしょう。パイプがスパイラル状を描いていくので、ねじれていることが表現されています。あれは比較的コストもかからないで、うまくいったと思います。
ホテルの1階がとてもキレイでした。ほとんどのホテルが街中にあるからかもしれないんですけれど、普通のホテルではあんなに開口部が大きくないと思います。フロントがなかったらあのロビーはホテルとは思いません。
そうですか。それは嬉しいな。あのホテル・チェーンはそれほど高級ではないので、それほどお金をかけられませんでした。
お金がかけられているように見えました。伊東事務所でデザインした椅子も良かったですね。
木の葉のような椅子ですね。
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