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品番がわからない場合


公共建築の手足れ

公共建築の手足れ
斎場、教育施設、町民施設、文化施設、スポーツ施設、何でもござれ

針生さんの代表作のひとつ「名取市斎場」は日本建築学会作品選奨を受賞しています。また最近「酒田市斎場」もできています。それぞれのコンセプトを教えてください。

「名取市斎場」も「酒田市斎場」もコンセプトはほぼ同じです。ひとつにはあまり目立つ建物にしたくないというのがあります。そういうなかで非日常的な場所なので、日常から非日常に行く時に結界の場所を必ずつくりたいと思いました。それには池や橋懸りをつくっています。もうひとつは遺族の問題ですけれど、同じところをなるべく通らず回遊して行きたい。そしてその時に外の景色が順々に見えて、光や風が入るのを感じながら回って行きたいと。それまでの斎場というのは、抹香臭くて、暗かったので、もっと明るくて、清々しい場所にしたいと。また自然素材をできるだけ使いたいんですけれど、限界があるので、そういったことで癒しのようなものをどう演出できるかということだと思います。

名取市斎場

名取市斎場

酒田市斎場

酒田市斎場

仙台の七ヶ浜には針生さんの代表作が多く集まっていますね。

七ヶ浜町に関しては特命があって、随契(随意契約)でした。老人憩いの家と学童保育を一緒につくるというもので、大変画期的なんです。ところが町長と助役で意見が違うんです。町長はワンルームで老人も児童も一緒のものを、助役はある程度区切ったものを求めていて、僕には調整はできませんし、設計はできませんと言いました。また我々の税金を使った事業でもありますから、よくわからない補助金の使い方はまずいので、来年に回したらどうですかと言いました。仕事はなかったんですけれどもね(笑)。先ほども言いましたが、やるとか、やらないとか、やらせないというのも大事なんです。

一旦断っていたのですね。

3日位して、企画調整課長から「相談があります」と電話がきて、行ったら、「この間の特命の件は来年に回しました」と。ただ仙台市で日建設計が国際会議場の基本設計をしていて、それに連携した国際セミナーハウスを七ヶ浜につくるという話で、七ヶ浜町としては国のリーディング・プロジェクトですごく補助金が出るんです。「コンペを勧められて、コンペにしたいので、コンペの仕方を教えていただけませんか」という話でした(笑)。それで国際会議場をはじめとしたコンペの色々な資料を持って説明に行きました。それが11月末位でしたけれど、これからコンペを実施して、基本設計を3月末までにまとめなければいけないというわけです(笑)。

それではコンペは無理ですね。

そうなんです。それで帰ってきたんです。そうしたらまた電話がきたんです(笑)。今度は「針生さんはこういう仕事をやりたいですか」と聞かれて(笑)、「頼まれれば、やぶさかではありません」と応えました(笑)。それで三役と会うことになりました。提出していた経歴書とか事務所概要を見て、「あなたのところは所員が7名だけの事務所だけれどできるの」とか、「事務所には実績がないけれどできるの」とか、これではダメだみたいなことを言うんです。「日本には所員が1000名を超す大きな事務所もありますけれど、そういう事務所では1000名でひとつのプロジェクトの設計をしているわけではありません。その中でチームは4〜5名なんです。僕はトップで、トップ自ら総がかりでやりますから、負けません(笑)。大丈夫です」と言いました。それから実績の話で、「実績のあるところはマンネリ化しています。実績がない方が一生懸命やれば、より面白いものができます」と。「特に今回は今までにないようなユニークなものを求めているのでしょう」と。それで了解されました。ところが指名委員会になって、2回通らず、3回目に企画調整課長が頭を下げてくれてやっと通りました(笑)。通す条件としては「すごくいいものをつくってほしい」と。それでは「設計監理料は大臣告示通りにお願いします」と。それでやっと設計させてもらえることになりました(笑)。

そんな長い経緯があったのですね。「七ヶ浜国際村」のコンセプトは。

山の上に開拓した畑がありました。そこから一歩も踏み出さないように、ランディングさせようとしました。森の中に埋まるようにしたい。なおかつ海の近くなので、舞台後方の大きなガラスの向こうに海が一望できる、海の見えるホールにしました。ホールそのものは運営上あまり大きなものにはしたくないので、600席以下にしました。ただリハーサル室や楽屋などはきちんと取っています。それからできるだけ町民参加型で、町民にとって使いやすいものにしました。

七ヶ浜国際村

七ヶ浜国際村

ホールはふたつあるように見えましたが。

ひとつです。町の祝祭空間のようなもので、町の人が来て、ここで色々なことができるし、色々な催しに外からの人も来る発信の場所にしたいと考えました。

「七ヶ浜サッカースタジアム」はプロポーザルですか。

いいえ、特命です。「七ヶ浜国際村」が名物になりましたので、今まで出身は仙台と言っていた町民の方が七ヶ浜と言うようになったんです(笑)。人がたくさん来るようになりましたし、JAFRAアワードという賞も受賞したんです。それで「アクアリーナ」と「サッカースタジアム」も特命で仕事が来ました。

七ヶ浜サッカースタジアム

七ヶ浜サッカースタジアム

「七ヶ浜サッカースタジアム」のコンセプトは。

なるべく圧迫感をなくしたい。全体としては重苦しくなく、スレンダーで優美なものにしたいというのがありました。

客席の下の部分がきれいですね。

選手控室、運営室などの支持空間を楽しく、明るく構成しました。

構造的には垂直より斜めの柱の方が力が出ている感じがしますね。

そうです。そしてまっすぐだと鈍重な感じがしますけれど、斜めだとシャープな感じがします。僕はキレのいい建築が好きなんで、いつもキレのいい建築をつくりたいというのはあります。

「アクアリーナ」のコンセプトも教えてください。

周り道をしていたものを、段差を利用して広場を通してショートカットするようにしました。その段差を利用して、色々なものをつくっていきました。各建物が平行ではなく、少し開いた形にして、各空間に動きを出しました。実は大きな体育館だけ頼まれたんですけれど、それはいらないと。というのは隣に小さな体育館があったんです。両方でひとつの体育館で、残りの分はトレーニングセンターとかプールをつくりましょうと企画段階で提案をしました。それで今の形になりました。

アクアリーナ

アクアリーナ

なるほど。

「八戸ポータルミュージアム『はっち』」が同じ方法なんです。あれは山車を入れる観光交流施設だったんですが、僕は観光っていう言葉が嫌いなんです(笑)。それで観光という言葉を使うのはやめましょう、ミュージアムにしましょうという話をしました。あれは相手の意図とは違うことを提案していくことによって、本当の市民の要望や市の要望をぶつけることになり、プロポーザルに入選したと思っています。ひとつは施主に言われた通りにつくるというのがありますけれど、それは言われた通りではなく、やめた方がいいと止めることと、その中間があると思います。

八戸ポータルミュージアム「はっち」

八戸ポータルミュージアム「はっち」

建築家は哲学をもたなくてはいけないということですね。東北大学の出身で「東北大学川内厚生会館」もつくっています。今日拝見させていただきましたが、学生に大人気でした。

「七ヶ浜国際村」も人気なんですけれど、「東北大学川内厚生会館」も人気なんです(笑)。

東北大学川内厚生会館

東北大学川内厚生会館

「東北大学川内厚生会館」のコンセプトは。

既存の学食のように塊でつくっても仕方がないので、回遊できるようにしたいということと、既存部との間に屋外の広場を設けることによって快適にしたいと。皆好みが違うけれど、皆で一緒に食事をしたいという人のために、分散型キッチンにしました。あとはできるだけ木造にしていることと、さらに垂木構造にすることでリズミカルにしています。垂木構造にすることによって音響もよくなるんです。垂木が出ていることで乱反射するんです。フラットの天井だとうるさいんです。

季節のいい時にはアウトドアのスペースも素晴らしいでしょうね。他には「子どもの村東北センターハウス」「八木山動物公園ビジターセンター」などの子どもの施設も設計しているのですね。

はい。

子どもの村東北センターハウス

子どもの村東北センターハウス

八木山動物公園ビジターセンター

八木山動物公園ビジターセンター

陶芸の里

陶芸の里

丸森地域産業伝承館

丸森地域産業伝承館

「子どもの村東北センターハウス」の南京下見張りは懐かしいですし、中もきめ細やかなデザインですね。

木構造を見せない木造は嫌いなんですけれど、垂木くらいしか見せられません。「子どもの村東北センターハウス」では割と外壁も板張りにできたんです。昔、木造で「陶芸の里」をつくったんですけれど、七ヶ浜町はそれを見て頼んできたんです。

そうだったんですね。

「丸森地域産業伝承館」も木造ですけれど、これを見た安藤(忠雄)さんが柱の森だと言って、スケッチして送ってくれました。

「八木山動物公園ビジターセンター」も木造ですね。

あれは仙台市から頼まれて、数寄屋造の動物病院をつくったんです。それで気に入られて、次々に色々な施設を設計しています。


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