住宅の寿命「イギリス75年、日本26年」
 イギリスに行くことになった。といっても観光旅行ではない。留学である。イギリスといってもロンドンではなく、マンチェスター。今でこそサッカー・ワールドカップのおかげでベッカム選手とともに有名になったが、そのときは「昔、社会科の授業で聞いたことがあるような・・・・・・産業革命で有名だったかな?」という程度。
 イギリスに出発する前、日本の住宅事情を説明できる資料、と思い購入した当時の建設省発行「建設白書」の中にショッキングなデータをみつけた。住宅の平均寿命「日本26年、アメリカ44年、イギリス75年」、何とイギリスの住宅寿命は日本の3倍! その後新聞等のメディアでこのフレーズは何度も取り上げられ、今でこそ認知されてきた事実ではあるが、それまでほとんどの人が知らなかったのではないだろうか。もちろん私も知らなかった。
 これから大きく変わろうとする日本の住宅の将来を考えるとき、過去に影響を受けたイギリスの住宅を研究し、「どうして日本の住宅の3倍も長持ちするんだろう」、「そもそもリビングルームって何をするところなんだろう」と考えてみることは、ひょっとしたらとても重要なことかもしれない。十何年もこの仕事をしてきた私にとって、大きな転機になるのではないかという期待が膨らんできたのだ。
 イギリスでいろんな人に会って、日本の住宅の話しをするとき、「日本の住宅の平均寿命は、たったの26年なんです」というと、こちらの期待を裏切ることなく、みんな目を真ん丸くして、「いったいどうしてなんだ」と尋ねてくる。私が説明していたのは、「26年というのは世代のサイクルと一致していて、おやじが死んで息子がその家を継ぐときには、大概壊して建て替えるんだ」ということだった。少々乱暴な説明ではあるが、英語で話すには簡単だった。
 その他にも、日本人は他人の建てた家を借りて住むならともかく、買ってまで住もうとしないところがある。それは、住宅はある特定の人のため建てられるものであって、間取りもその人のために考えられるべき、という意識に原因があるだろう。自分が建てた家は、自分と家族だけのための家であって、その後他の誰かが住むなんてことはほとんど考えていないのだ。そんなわけで、日本の住宅は大切に手入れをすればまだまだ使えるのに、天寿を全うする前に壊されている、というのが短命の一つの理由であろう。

「住宅は永久である」と心から信じているイギリス人
 これに対してイギリスの住宅は、ある特定の人のために建てられるということはまずない。勉強していた設計事務所で「イギリスに注文住宅はないの?」と尋ねたら、「ビルゲイツじゃあるまいに」と言われたくらいめずらしいようだ。だから間取りも大きさの差こそあれ、中に入れば金太郎飴状態で、どれも同じである。
 イギリス人は、自分のための間取りの住宅を建てよう、なんていう大それたことは決して考えず、中古の住宅を買って、せいぜいインテリアやガーデンを自分の好みに造り替えて満足する。結果として中古住宅市場が発達していて、いくら古い住宅でもしっかり手入れされたのもなら、値段は新しい住宅よりかえって高くつくのである。自分の住宅が手狭になったら、それを売って少し大きな住宅を購入できる。住み替えが無理なくできる仕組みである。
 日本の場合、自分の家を大きく快適にしようと思ったら、かなり大変なことになる。中古住宅がほとんど出回っていないのに加えて、賃貸住宅は小さく質も低い。結局多大なローンを抱え込んで、自分で建てるしかない。ものすごい手間とお金が掛かる仕組みになっているのだ。
 住宅の寿命が短いから、中古住宅市場が発達しないと言われることがある。しかしどうも、住宅の耐久性を向上させただけでは問題は解決しそうにない。古くなった住宅の性能や価値をきっちりと判断できる仕組み、自分の住宅を魅力的にして社会的なストックにしていこうという住み手側の意識、「住宅は永久に保つ」という絶大なる信頼感。これらが、イギリスにあって日本にはないものである。