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   誘導都市から流体都市へ


“誘導都市”という言葉についてわかりやすく教えてください。

“誘導都市”というタイトルで、あるいは“INDUCTION DESIGN”として、1990年頃から継続して研究しているプロジェクトです。設計というのは最終的に1本の線を決めていくことになるわけですけれど、この線を決めるのではなくて、どういう条件を満たす設計がほしいのかを考えて、その条件からこの線ができ上がっていく、そういう仕組みをプログラムでつくろうという構想です。
例えばこのグラスを設計するとして、グラスの縁を唇に当てた時に気持ちよい感触になるのはどういう曲面か。普通はまず図を描いてCG をつくり模型を用意し、それをまたつくり変えて、それで曲面のラインを決めますね。それは結局、いくつもスタディすればいいものが出るだろうという前提に立っている。そうではなくて、唇に当たる感触は、どのくらいの硬さ、どのくらいの滑らかさ、どのくらいの角度の組み合わせだったら気持がいいかを見つけることができれば、そしてそれをプログラムにすることができれば、線で形を決めなくても、一番調子のいいものがおのずとできるでしょうと。それをもっと条件の複雑な建築や都市で、行えないかと考えました。グラスだったら実物をいくつもつくればいつかはいいものができるでしょうが、建築や都市で実物実験の繰り返しはできないですね。だから新しい方法を考えましょうということです。

コンピュータでやるのですね。

さまざまな条件が互いに関係して絡み合っているため、もつれた糸の、大きな塊をほぐすようなものです。人の頭でそれを解くのは不可能で、コンピュータ・プログラムが必要です。この方法は、問題解決と設計の手順を記述するという意味で、広く“アルゴリズミック・デザイン”とも呼んでいます。

『建築は、柔らかい科学に近づく』
『建築は、柔らかい科学に近づく』

渡辺さんの著した『建築は、柔らかい科学に近づく』によると、それが先々流体都市になるということですが、それはどういうことですか。

それはちょっと象徴的な意味を含んだ表現です。一度でき上がったら変わらない堅いものではなくて、状況と反応して動いていく。もともと都市は本来そういうものです。あっちで建って、こっちでなくなって、受け継ぐものは受け継いで、変わっていく。そういう一種の流体のような街や建築、それを状況に任せるのではなく、設計することを目指すものです。
普通、ある地域や街全体は一度に一括して設計されたわけではない。全体はいわば現象です。部分は設計できるけれど全体はその時任せの現象、というのではなくて、その全体をも設計できないか。ただしそこでの設計は、今までのように線を選びすべてを決めるのではなく、決めるところと決めないところのある、どちらに向かうのかを誘導するような類いの設計。だから“誘導都市”。街も建築も動いていくものなのだから、この動いていくということを保ちながら設計していこうという。

それができれば街はいつもいいですね。

そうですね。
新水俣駅のベンチ
新水俣駅のベンチ
撮影:MAKOTO SEI WATANABE/
ARCHITECTS' OFFICE


渡辺さんは建築以外にも、その周縁の照明、家具などもデザインしていますか。

はい。家具は状況さえ許せば、建築を設計した時にいつもつくっています。ですから駅でも、それぞれの駅のベンチを設計しています。放っておくと既製品が入ってしまうので。これもつくれるようにするまでが大変で。タダで設計すると言っているのにつくらせてくれないのです(笑い) 。

そういうのはタダですか。

普通は家具の設計料もあるのですが、駅はなかった。その上、安い既製品を買う予算で特注品をつくるわけで、大変です。「飯田橋駅」も、つくばエクスプレスの駅も、それから「新水俣駅」も、それぞれ違うベンチをつくっています。家具は「青山製図専門学校」でも設計しました。その時々で、素材の隠れた力を形にしようとしています。「上海住宅」では、今衰退しつつある中国の漆と螺鈿の技術を再活用していますし、この「東京住宅」では厦門(アモイ)で見つけた石を滑らかな3次元曲面にした大テーブルと、1枚のリボンのような革のソファをつくりました。

東京住宅
東京住宅
撮影:MAKOTO SEI WATANABE/
ARCHITECTS' OFFICE

上海住宅
上海住宅
撮影:MAKOTO SEI WATANABE/
ARCHITECTS' OFFICE

「東京住宅」「上海住宅」と都市の名前を作品に付けているのには、理由があるのですか。

そんなにたくさんつくっていませんから(笑い)、「上海住宅」と言っておいて、その2、その3とかが続々と出るとも思えないから、付けてしまおうと。

今回のインタビューを行っている、この快適な「東京住宅」のコンセプトを教えてください。

今こうして座っていると、そよ風が気持ちいいですよね。この気持ちのよさが、この住宅の、いのちです。ここは部屋の中で、家具もキッチンもすぐそこですが、風のそよぎや光の反射を感じていると、外の庭に座っているような気もします。庭に椅子を出せば、今度は庭が部屋の中のような感じでしょう。どこから中で、どこが外か、はっきり分かれていない。そういう、部屋の中にいても庭のようで、庭にいても部屋のように感じられる住宅をつくろうとしました。2列の部屋と3列の庭が交互に並んでいて、その間のスクリーンは開放できます。開け閉めの組み合わせにより、空間の連続の仕方が変わる。だからこの住宅のプランは、住む人がその都度選ぶことができるのです。

「上海住宅」も大きいですね。

「東京住宅」とほぼ同じ550m
2ほど。

スゴイ広さですね!どういうクライアントですか。

中国人の友達です。10年以上前からのつきあいで。こちらは楕円形の中庭を囲む構成で、庭に水を張ると、暑い上海の夏も涼しい。

次は「ニューヨーク住宅」とか、あるのでしょうね(笑い)。

あるといいですね(笑い)。

ニューヨークのトイレのコンペ入賞案
ニューヨークのトイレのコンペ入賞案
撮影:MAKOTO SEI WATANABE/
ARCHITECTS' OFFICE

そう言えばニューヨークのトイレのコンペで入賞していましたね。

ずっと昔ですね。

僕のところで編集していた『コンペ&コンテスト』に掲載しましたが、あの液晶ガラスのトイレは電気が切れると透き通るのですか。

そうです。あれは停電などで電源が切れると透き通りますから、外から中が見えてしまいます。大変ですね(笑い)。

液晶ガラスでできていて、電気が切れてしまうと外から丸見えになってしまうというのは面白い(笑い)。

アメリカのどこかのレストランであのアイディアでつくったのを見たと言ってきた人がいました。今だと誰でも思い付くと思うのですけれど、あれをやったのは15年位前ですから。

あれは何等だったのですか。

2番目か3番目位だったと思います。確かニューヨーカー誌とかに載っていたように思います

1等案はもっと閉鎖的な案でしたね。ニューヨークに渡辺さんのトイレができていれば面白かったですね。

当時できていれば観光名所になっていたかもしれません(笑い)。


  
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