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●インタヴュー2
相手:張永和(1956年北京生まれ、建築家)
場所:円明園の東門近くにある張永和氏の「非常建築」事務所にて
日時:2005年3月28日
「非常建築」の張永和氏は非常に多忙なご様子であったが、何とか40分弱の時間を割いてインタビューに応じていただいた。細かいデザイン面の説明は同事務所の王さんと朶さんが引き受けてくださった。訪問の数日前、氏がマサチューセッツ工科大学の建築学科主任に任命されたニュースが中国国内のメディアで大きく取り上げられた。
林:このたび、中国人として初めてアメリカの建築学界の重鎮的役職につかれたとのこと、心からお祝い申し上げます。
ところで、「運河岸上的院子」(以下「運河岸」)の特徴としては現代的なデザインと中国の伝統的空間との結合がよく挙げられますが、実際は灰色の壁を用いているという以外に、それほど四合院建築との類似は感じられないように思います。「運河岸」で表現された中国の伝統とはいったい何なのでしょうか。
張:「運河岸」の建設には大きな制限があったのです。全体配置計画は別の建築家がすでに作っていたもので、建物の形状も先に決まっていました。だから私はこのプロジェクトがあまり好きではなかったんですよ。私は北京で育ち、13歳まで四合院に住んでいたんです。伝統的な四合院建築は熟知していますし、当然ながらとても愛着があります。ですから、もし最初からこのプロジェクトに参与していたのなら、建物ももっと四合院に近い形にしたでしょう。残念です。もう一度別の協力の機会があることを願っています。
私は、中国の伝統的な建築はさまざまな分野、またはレベルで、中国の今日の建築や住まいに多くの啓示があると思っているのです。しかし「運河岸」にはそれらが十分生かされているとは言えません。灰色の壁と屋根、そして植物の緑の組み合わせは確かに古い北京の町にあるもので、視覚的には伝統的な中国らしい感じを与えるかもしれません。しかしそれではまだ不十分ですね。
西欧では建物が中央にあって周囲が空き地ですが、中国の建築ではその反対で建物が敷地外周にあって中央の庭(院)を囲んでいる。建築物が環境の中に散在し、環境と融合しているべきなのです。私が作るのであればそのような、つまり「天人合一」などの中国の伝統的な哲学を表現した建物にしたでしょう。
また伝統的な四合院は空間も他の地方のものと違います。西欧などにも中庭はありますが、たいていは通路や採光のためです。しかし、中国では中庭は屋根のないリビングルームのようなもので、そこで生活し、物事を行うための場所なんです。われわれの事務所が今ある場所も、四合院ではありませんが古い建物で前に庭があります。ほら、野菜を育てているでしょう?昨日もそこで採れたほうれん草を食べたばかりですよ。このように中国の「院子(中庭)」はとても面白い。私は懐旧の念からではなく、中国式の院子での生活に高い「質」があると感じ、好ましく思うんです。
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張永和氏。事務所の前庭にて。
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林:建築の材料については伝統にこだわりませんか?「運河岸」の建物の外壁には新しいタイプの素材を用いているようですが。
張:中国の伝統的な建物は土と木を使うもので、木の枠に土の壁です。しかしもちろん現在はそれで家を建てる訳にはいきません。だからコンクリートを使います。「運河岸」の壁もコンクリートのブロックで、粘土のレンガではありません。このブロックは、もともとはアメリカ製品であったものが、技術が輸入され、現在は天津や北京で生産されているものです。現代の材料を使って「伝統」を翻訳したいと考えました。
私の理想は伝統の形式を、重複するのではなく、そのまま持ってくるのでもなく、「転化」させることです。しかし「運河岸」ではこの理想はまだまだ達成されていませんね。
湖南省湘西の鳳凰出身の芸術家に黄永玉という人がいますが、こんどそこの吉首大学に彼を記念した博物館が建ちます。その設計を私が担当しています。またハムの生産で有名な浙江省の金華にある公園でも、遊覧客が休んだり遊んだりするための16のあずまやのようなものを私が設計しています。それらは私の今言った考えにもっと近いものとなるでしょう。
林:なぜ、新素材でなくてはならないのですか?
張:伝統的な建築素材は粘土のレンガです。粘土レンガを作るためには田畑にあるような良質の土が必要ですが、中国では現在建築ラッシュに伴い需要が激増しましたから、掘り起こしすぎて耕作地が荒らされてしまうようになりました。そして生態圏が破壊されてしまったのです。現在の中国では粘土レンガを使えば罰金が科せられるんですよ。ですから私たちも伝統的な材料の代わりとなる、持続的利用の可能な新しい材料を探さなくてはならないのです。
林:制限のなかで、伝統中国の要素を発揮するということですが、では、灰色の壁以外では、「運河岸」にはどのような中国的要素が盛り込まれていますか?
張:灰色の壁を用いたのははっきり目に見える特徴ですが、他にも目に見えない特徴があります。中国でも日本でも韓国でも、人の生活の場という点から住宅は静かな環境であること、そして清潔な環境であることが追求されてきたと思うのです。
私は今回、「安静(中国語の発音はanjing)」と「干浄(発音はganjing=清潔の意味)」の2つの「jing」が特に重要だと考えました。これは北京らしい家であることより、ずっと優先されるべきことでしょう。住む人にもこの点を気に入ってもらいたい。色などはこの2つの点を演出するための手段にすぎません。われわれが事務所を構えるこの場所も、確かに円明園の中にありますから景色はいいですが、それより何より、心が落ち着くことがいいのです。この点が西洋の場合と違うことでしょう。
西洋の空間は物体が占領することで表されます。ですから西洋ではしばしばまず「形」をみるのです。しかし東洋では常に「空」、「無形」をみます。「有形」のものは往々にして自己を過度に顕示しますが、中国では、すこし哲学的でまわりくどいですが、「大象無形」という言葉に表れているように、無形であるものの中に強いものの存在を見るんです。強さとはいっても西洋のそれとは違い、「空」の中にあるのですから静かなものですけれども。
林:では、その2つの「jing」とは具体的にはどんな形で建築に現れるべきだとお考えですか?
張:形式がシンプルであること、含蓄があること、そして素朴であることでしょう。我々の建てるすべての家屋も全てこれらの言葉で形容できれば、と思っているんです。建物は芸術とは違います。芸術は人がそのために見に行くものですから、やはり視覚的に強烈な何かがなくてはならない。しかし建物は住むもの、用いるものです。住む人の一部分になるものですから、常に意識する必要はない。常に自己顕示し、見ることを要求する建物だと、住む人は疲れてしまうでしょう。
林:「含蓄」がある建物とは具体的にはどんな建物ですか?
張:やたらと突出した強烈な形式を持たない建物です。中国語における「含蓄」とはある一言を直接に言わないこと。これは中国の礼節、礼儀とも関係が深い言葉です。今の多くの建築は激しすぎる。ものの言い方があまりに率直すぎるのです。ですから面白くない。建物の隠し方も不十分です。竹やぶや木でもっと建物を覆うべきですよ。今の傾向は建物がよく見えるようにと垣根を取り払いたがりますが。
林:「運河岸」でも、垣根はかなり低くなっていますね。
張:それは現代の人が考える庭の空間と垣根の関係がそれを求めるからです。同じコミュニティに住むものである以上、お互いをあまり隔離するのは好ましくない、という発想でしょう。しかしオフィスはともかく、住宅であれば私個人はもっとプライバシーの保たれる形の方が好きなんです。
垣根の高さはデベロッパーとの間で話し合って決めました。垣根は低いだけでなく、場所によっては向こうが透けて見えるものになっています。
林:では、張さんの考える理想的な開放度とはどういったものですか?
張:実は「運河岸」は理想とかけ離れているんですよ。伝統的な四合院では、中庭の大きさはそれほど大きくはありません。9メートル×9メートル、つまり81平米の中庭があって、その四方をそれぞれ3つの部屋が横につらなった4つの建物が取り囲んでいる。これぐらいのスペースの中庭が実に気持ちがいいんです。機会があれば作ってみたいものですね。そして建物は内向的な、含蓄あるものでなくてはなりませんから、外側の塀を密閉性の高いものとし、中庭のある中心を開放的なものにしたいと考えています。
林:北京でより理想に近い四合院式邸宅をデザインする可能性はありますか?
張:チャンスを待っているところです。面積は小さいですが、連鎖式の中庭つき住宅についてなら、話が来ています。取り組む可能性が大きいでしょう。
林:屋内の空間についてはどうですか?
張:更に不満ですね。私は特にアメリカのそれを熟知していますが、中国でも欧米でも住宅の空間は2つの部分に分かれます。一つは人が実際に住むための空間、つまり生活の空間ですね。そしてもう一つは客間やダイニングルームなど、人に見せるための空間です。
しかし、実際は今回のこの物件については、買い手が購入後、自分の客などに家を見せることはとても少ないでしょう。なぜなら買い手のほとんどはとても忙しい中年層の人々で、客を自宅に呼んでご馳走をしたりする暇などほとんど無いでしょうからね。ですから、多くの場合、客間、(接客用の)ダイニングルームなどはほとんどデザインする必要がありません。私はこれをとても非合理的だなと考えているんです。家の良さは大小にあるのではなく、住みやすさにあるはずでしょう?ですから使わなくてはいけない。使わないのであれば、他人の家で客として振舞うのと同じことになってしまいます。
設計の際、平面的にはもう先に決まっていて、今言った2つの要素も盛り込まれていました。われわれはその間取りを徹底的に変える方法を思いつけなかったのです。私がスライド式の吊り壁を1階部分でも2階部分でも多く用いたのは、常に(生活用と客用との)空間の仕切りを自由に変えられるように、と考えてです。これで、本来は空間の使い手でしかなかった住人が空間を能動的に区切ることができるようになるんです。子供が空間を必要とするようになったり客が訪れたときには、壁をスライドさえすればいいのですから。
林:中国人の伝統的な生活様式については、どう捉えていますか?部屋では靴を脱がず、椅子を用いるという点では欧米に近いように思いますが。
張:似ているとはいっても、やはり違いはありますよ。中国ではある時代まで室内の多くの空間は突き固められた土間でしたが、椅子の下には台があり、椅子に座れば足が床につかないようになっていました。しかし現在の中国人の多くはマンションやアパートに移り住んでしまい、住宅の床もタイルやフローリングとなりましたから、欧米式との違いは論じにくくなりましたね。
中国人の古代の生活スタイルは欧米のそれと確かに似ている部分もありましたが、「住まい方」ということになると、とても異なっています。連立式の家、つまりタウンハウスという形式は、比較的ヨーロッパ文化的なものを表していますが、その住まい方は中国の四合院とは大分違っています。しかし、今は、高層マンションに移り住む人が増えましたから、欧米との距離はだいぶ近づきましたね。あえて言うなら中国人は方角、家の向きに非常にこだわることでしょうか。これは大きな違いでしょう。
林:張さんの設計されたモデルルームでは、窓辺も座ることができる高さと奥行きになっています。床にも座れるようになっており、「座る」ことを重視しているように感じましたが、これはどういう意味をもっているのでしょうか?
張:床に座るのは古代の中国でも今の日本や韓国と同じように行われていたことです。一つの家は、多くの使い方の可能性を持っていたほうがいい。そうであればこそ、家と人の関係は親密なものになるのです。住む人は床に座っても窓辺に座ってもどちらでも構いません。窓辺を座れるようにしたのは、人と室外との関係をより親密にできるからです。そうせずに典型的な西洋的な形状をとってしまえば、土地の真ん中に建物があって、その更に中心に人がいることになる。だから人と家との間に距離がある上に、人と周囲の環境との距離もそれほど近いものではなくなってしまいます。

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(左)窓辺に座ることのできる幅が設けられている。
(右)中間的なアースカラーを多用した居間。
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林:室内にはコルクが多用されています。これも自然との親和感のためですか?
張:私は実は純粋な自然の素材にのみ関心があるのではありません。工業の発達した今日では、さまざまな合成素材があります。ですから私はコルクのほかにゴム、また砕いた木片を圧縮した板など様々な質感のある合成素材を使いました。コルクだけを集中して使ったのではないんですよ。用いたのは加工素材ですが、全く人工的でも、全く天然でもない豊富な質感をもつ素材です。抽象的な平面ではなく、織布のような含蓄のある素材で、加工してありますから湿気や乾燥などでも変形しません。
林:灰色の壁ばかりの「運河岸」は、春から秋にかけては緑があってさわやかだと思いますが、私が訪ねたのは冬だったので、かなり荒涼とした感じがしました。住まいと季節感との調和についてはどうあるべきだと思われますか?
張: 私も北京人ですが、北方の人間は冬は室内にこもるものなのです。特に郊外の農村では冬は大地が一面黄色になりますから、室内の装飾には鮮やかな赤色を多く用いますね。
冬が灰色なのは北京の特徴だというしかありません。しかしひとたび春になれば自然もどんどん華やかになりますよ。
林:一面の灰色も北京らしさということですか?
張:そうですね。私は建物に色があるのは偽物っぽい感じがして好きではないのです。
林:では、運河沿いの敷地に建設されるという、「十二大宅」と呼ばれる庭付き住宅についてお話を伺いたいと思います。世界のデザイナーたちが腕を競うというこれらの住宅は一体どのような特徴をもつものなのでしょうか。
張:まだ建っていませんが、これは意匠をこらしたとても面白いものになります。私たちの設計したものは皆「院子(中庭)」と関係があります。1階はすべて互いに背を向き合った、4つの庭になっています。中間には実際には室内なのですが、採光のための透明の天井のついた中庭があります。1階と2階とはまったく違っていて、一階の庭は風車のような形になっています。
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「十二大宅」個々の敷地面積はそれぞれ1,200平米。建築面積は約2,600平米。販売価格はそれぞれ1,000万元から2,000万元の間となる予定。統一感を持たせるため、建物の外壁構造壁の位置についてはデベロッパー側から指定があったという。つまり、指定された建物外形の中でどこまで設計者のオリジナリティが出せるかというので各設計者の能力が問われるプロジェクトだったそうだ。
張氏が担当しているのは「の」の字型の構造壁があるユニット。素材にはフローリング用の板を壁に用いたり、レンガの一部にガラスのブロックを用いたりしている。5つのベッドルームがあり、居住空間は1階に集中している。2階には木質の壁を多用。全体的に緑地が多いのが特徴。
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林:これらについては、「院子(中庭)」もあり、ご自身ですべて設計されたものになるのですね。
張:はい、そうです。全部で12戸あり、他もすべて別々の建築家がデザインします。
林:12の建物といい、海外からのデザイナーの結集といい、「長城脚下的公社」との類似を感じるのですが、関連はあるのでしょうか?
張:12にこだわったオーガナイズの仕方は似ていますが、他は全く違いますね。「長城脚下的公社」の別荘群は非常に拡散して建っていますが、「運河岸」は郊外にある住宅群ですから密度が高いものです。
また「長城脚下的公社」では海外のデザイナーが寄り集まっていますが、北京の地方性と関係の生じているデザインは少ない。この点は「運河岸」の方が少しはましですね。「長城」でも日本人の一部のデザイナーは考慮しているようですが、面白いのは、現地のデザイナーで却って全く考慮していない人もいることです。外国人だから地方性を考えない、というわけではないようですよ。
林:集会所(「会所」)については、より典型に近い四合院の形が見て取れますね。これはどういった構造になっているのですか?
張:これは、非常に単純な発想からです。「運河岸」のデザインを担当したときに、では一体「院子(ここでは伝統的スタイルの中庭つき建物)」はどこにあるのか?という問題にぶつかったのです。そこで「会所」では7つの「院子」の上にさらに「院子」を被せる、というスタイルをとりました。その内の一つはテニス場です。2階の「院子」はホテルになっていて、その一つ一つの客室にも中庭があります。そして小さい院子が連なっているだけでなく、一階全体も、プールに中庭のような意味合いを持たせて、それを囲む部屋からもプールを通して向こう側へと見通しがきくようになっています。「十二大宅」の十二の院子とあわせ、これだけ「院子」が揃ったならば、「運河岸的院子」も何とかその名に恥じないプロジェクトになったといえるのではないでしょうか。
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