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若いカップルがリフォームした小さな労働者住宅
前回、前々回で、ビルとジュディス夫妻の二つの住宅を紹介してきた。イギリス人が、古い住宅をとても大切に、愛情を持って住み続けている様子がおわかりいただけただろう。この二つの住宅は一戸建であったが、コラム第一回でもお話しした通り、イギリスでは一戸建てよりも、2戸連続したセミデタッチドハウスや、3戸以上つながったテラスハウスの方が、はるかにたくさん建っている。そこでもう一度、ビルとジュディスが暮らしているディズベリー周辺の住宅地図を眺めてみよう。確かに周りを取り囲むのは、ほとんどがテラスハウス。そして今回ご紹介する二つのテラスハウスも、二人の住宅のすぐ近くに建っている。

ある日の英語授業が終わりに近づいた頃、
「トシは、テラスハウスの中を見たことがあるの?」
と、ジュディスが訊ねてきた。
「外からはよく見るけど、中はまだ…」
私が答え終わるか終らないうちに、ジュディスは受話器を取ると誰かに連絡をとり、
「それじゃビル、トシをお願いね」
と言って、私を連れて出かけるようビルを促した。
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−道路の両側に並ぶ2階建てのテラスハウス
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急ぎ足で2、3分。かわいらしいドアの並ぶ2階建のテラスハウスに到着した。ビルの話によると、ここにはビルとジュディスが住宅を購入した時にお世話になった、積算士・フィリップの娘さん夫婦が住んでいる。
娘さんは弁護士、だんなさんのピーターは、マネージメント・コンサルタント。かなりお金持ちの若夫婦に違いない。3年前に6万ポンド(1200万円)でこの家を購入。1万5千ポンド(300万円)をかけて、改築した。
テラスハウスは、イギリスを代表する住宅のタイプである。特に19世紀には、貧しい労働者用の住宅として、狭い間口、恐ろしいほどの高密度で大量に建設された。そして劣悪な生活環境を生み出したのである。このようなテラスハウスは簡単に言うと「2階建ての長屋」である。だから高密度と言っても、アパートのように上下に家が重なることはない。つまり、全ての家が土地に接し、僅かながらの裏庭を持つ事ができたのである。
1950年代から1970年代の始めにかけて、これらの住宅を大量に壊して新しいタイプの住宅を建設する動きが活発になる。新しいタイプの住宅とは縦に重なった、日本で言えば高層マンションタイプの住宅である。しかし、以前のテラスハウスより大きな面積が与えられたにもかかわらず、これらの住宅の評判はあまり良くなかった。一つには、それまで地面に接したハウスにしか住んだことのなかった住民たちは、高層階の生活に精神的な不安を覚えるようになった。また、治安の悪さも指摘された。とどめは、高層住宅で起きたガス爆発事故である。イギリス人はこのようなタイプの住宅を完全に嫌うようになる。やがて、古い住宅を壊すのではなく、改築したり増築したりして使っていこう、という考えが主流になり、19世紀に建てられた古いテラスハウス達は、壊される寸前でどうにか生き長らえるのである。この日訪ねたのも、そのような時代のテラスハウスであった。イギリスには、この時代の住宅がまだまだたくさん残っているのだ。
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間口4Mの素敵なプラン
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−右側のグリーンのドアが、ピーターの家の玄関
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一番右端の緑色のドアを叩くと、中からピーターが出てきた。彼の方がいつも帰りが早いらしく、奥さんはまだ仕事から帰っていない。彼に中を案内してもらった。
元々の間取りは、フロント側(道路側)に一部屋、バック側に一部屋、そしてバック側に張り出した流しのある部屋、という典型的な労働者住宅の間取りだったらしい。先程の住宅地図でもわかるように、ほとんどのテラスハウスのバック側に、この張り出しがある。これは、流し部屋(後にキッチンになっていく)やトイレなどの水まわりをまとめた空間であった。バック側の部屋の日当たりや通風を完全には遮らないように、一部だけ張り出した形をしているのである。
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−ピーターの家の間取り
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−リビングのドアを開けて、バックヤードの
方向を見る。向こうから覗いているのは
ピーター。
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−バックヤード
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しかし、現在は二つの部屋の仕切りが取り払われ、ワンルームのLDKとして使われている。この若夫婦が購入した際にリフォームしたのだ。イギリスでも若い世代には、このような開放的な間取りの方が人気のようだ。両サイドに窓が取れているので、思った程は暗くない。通風も良さそうだ。僅か4Mの間口の中で、使いやすく、さほど狭さも感じさせない間取りになっている。
バック側のフレンチ・ドアを開け、先程の張り出したキッチンの脇を通ってバックヤードに出る。とても狭いスペースではあるが、ベンチと鉢植えですっきりとガーデニングされている。日当たりも良くて気持がいい。建物の外壁と、1.8m位のレンガの塀に囲まれ、とても安心できる落ち着いた空間になっている。ここなら、「お茶でもしようか」という気になりそうだ。飲んだり食べたりに使うためには、キッチンやダイニングとうまくつながっていること、ある程度、周りを囲われた空間であることが大切のようだ。
ピーターは、
「会社から帰ってくると、ここで
よくコーヒーを飲みながら本を
読んでいるよ。
また、いつでも訪ねて来て」
と、気さくに言ってくれた。会社から帰る時間が早いことも羨ましいが、例え早く帰ったとしても、自分にはこれだけのんびりとした時間を過ごせる場所があるだろうか。会社のせいばかりにもしていられない。
ところで、ピーターのテラスハウスと道路を隔てて反対側のテラスハウスでは、状況が全く違ってくる。間取りはそのまま反転で、バックヤードが北に面しているのだから。そこでは多分、一日中薄暗いバックヤードで、洗濯物の乾きも悪いことだろう。但し、道路側の大きな窓からは一日中光が入ってくるので、フロント側の部屋が生活の中心になっているのかもしれない。どちらのテラスハウスに住むかで、生活が大きく違ってくる。しかしイギリス人はこのことを、さほど大きな問題と考えているようでもない。与えられた間取りに合わせて生活していく、それが彼らのやりかたなのだろう。 |
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